放射線は物質に照射されると物質と影響を与え合うという相互作用を起こします。
相互作用は、放射線の種類やエネルギー、物質の種類によって起こる内容が変わります。
入射した放射線の方向が変わるだけの散乱もその一つです。
それ以外にも、放射線は物質にエネルギーを与える(吸収される)効果があります。放射線の高いエネルギーを物質に分け与えて、物質を構成する分子や原子に変化を与えることです。
これが、『電離』と『励起』です。
今回は、その『電離』と『励起』についてまとめたいと思います。
そこまで複雑な内容でもないので、簡単にしていきます。
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電離とは?
電離とは、物質中に放射線がエネルギーを与えられることで、物質を構成する原子(または分子)の軌道電子が飛び出す現象です。
どういうことか順を追って説明したいと思います。
そもそも、世の中にある物質は原子や分子の集まりです。金属であれば、鉄(Fe)や亜鉛(Zn)など、元素周期表に載っている元素の集まりなのです。全てが周期表に存在する元素で説明できます。
では、この元素とは何なのか?
細かいことにまで触れてしまうとそれだけで1記事になってしまうので省きますが・・・
元素は原子核(陽子と中性子)とその周りに存在している軌道電子によって説明されます。
例えば、α線の元のであるヘリウム(He)は、原子番号(Z)が2で、安定の場合の質量数は4なので、陽子が2個、中性子が2個、軌道電子が2個で構成されています。
陽子はプラス、電子はマイナスの電気を帯びた粒子なので、その個数が同じであれば、電気的に中性となり、安定した状態(基底状態)ということができます。
ただ、原子について重要な性質知る必要があります。
それは、軌道電子とは原子核の近くで楽をしたいというものです。原子は常に安定した状態を目指した行動を起こすということです。
具体的には2つです。
1つは、原子は原子核と軌道電子で構成しているといいましたが、電子の数が1つでも減ると不安定な状態になってしまうので、軌道電子を自分の周りに留めようとするエネルギーが作用していることです。
原子核から近い軌道電子ほど、小さなエネルギーで済みますが遠くなるほど、大きなエネルギーを使って自分の周りに留めています。
これは、一般的な社会関係と同じかもしれません。
自分と近しい人ほど、仲良くするのもそれほどエネルギーを要することはありませんが、遠い関係の人と関係を続けようとするには、多くのエネルギーを必要とします。
2つ目は、陽子と電子のどちらかが多い状態では不安定なので他の原子と結びついたり、新たな電子線などを発しバラバラになろうとする作用を起こすということです。
不安定な原子は、安定した状態になるために最も効率的な方法を取って安定状態を目指すのです。
(余談ですが・・・こんな話を考えていたら下のような本を見つけました。まったく関係ないのですが、理系の始まりには面白いかもしれません。 笑)
では、また話を戻し放射線と物質との相互作用について考えたいと思います。
簡単に、安定した原子に電子線が入射された時を考えてみましょう。
この場合、起こることは大きく2つに分けられます。
①物質中の軌道電子と衝突することなく進む方向だけを変える(弾性散乱や制動放射)
➁物質中の軌道電子と衝突し、エネルギーを分け与える。
①の場合に関しては、別の機会にまとめるとして、『電離』や『励起』が起こるのは➁が起こった場合です。
➁が起こると、照射された電子線から物質中の軌道電子にエネルギーを与えられます。(運動エネルギー保存の法則により与えた分のエネルギーは電子線から失われます)
上記で原子は安定した状態であるために、軌道電子をエネルギーでもって留めようとしていますが、電子線からエネルギーを与えられた電子は留められるために使用されているエネルギーを超えるエネルギーを得ることがあります。
この時、与えられたエネルギーを使って軌道上から電子が飛び出すことが『電離』です。
電離された原子(または分子)は、マイナスの電気を1つ失うことになるので、ブラスの電気を持った原子(または分子)となります。この時の原子や分子がイオンと呼ばれています。
電離が起こった後の原子は、軌道電子が1つ少なく、上記したように不安定な状態になります。
これは、最も外側の軌道上に存在する電子で起こりやすいのですが、照射された電子線のエネルギーが高い場合には内側の軌道電子が電離することがあります。
この場合、もう1つ現象が起こります。
電離が起こった電離が起こった後の原子には、軌道上に電子が1つ足らない、つまり、空室(正確には空孔)が起こった状態です。
この空孔が原子核に近い、内側の軌道上で起こった場合には外側の電子を内側の軌道に引き寄せられるように移動(遷移)することがおこります。
外側よりも内側のほうが留めるほうがエネルギーが必要しないので、余分なエネルギーは外側に放出することになります。
このとき放出されたエネルギーというのが特性X線です。物質特有のエネルギー持ち単一エネルギーのX線です。
ちなみに、電離した電子は、軌道電子から飛び出すためにエネルギーを使っているので、その分のエネルギーを消費した残りのエネルギーを持つことになります。
この時、少ないエネルギーしか残らない場合は話はここで終わりですが、電離した後も大きなエネルギーを残している場合は、また別の電子と相互作用を起こし更なる電離を起こすことがあります。
このように電離した後も大きなエネルギーを持つ電子は、デルタ(δ)線と呼ばれ区別されています。
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励起とは?
一方で、電子線から軌道電子にエネルギーが与えられても飛び出さない場合があります。
別の言い方をすると、電離を起こせるほどエネルギーを受け取ることが出来なった場合です。
と言っても、電子線が軌道電子と衝突した場合は、必ずエネルギーを与えるということが起こります。
では、電子線から与えられたエネルギーはどう使われているのでしょうか。
それは、内側の軌道上に存在していた電子が外側の軌道上に移動するために使われることになります。
つまり、励起とは軌道電子が原子の外に飛び出すことはなく、外側の軌道に飛び移った状態です。
この場合、物質を構成する原子の陽子と電子の数には変化がないので電気的な性質は変化ありませんが、原子全体としてもエネルギーを得ることで元々安定状態(基底状態)に比べ高いエネルギー状態であるので、人でいう興奮状態(励起状態)にあるといえます。
励起状態になるまでの原子は人に例えても面白いかもしれません。
街中で誰かとぶつかってその時にイライラしちゃう方もいるのではないでしょうか。誰にもぶつからず歩いているときは穏やかな表情をしていても、誰かとぶつかった後には表情を強張らせて、声も張り上げるような興奮状態になってしまう。
このように放射線に衝突され興奮状態にされたエネルギーの高い励起状態なのです。
ストレスを発散すると怒りが解消されるように、原子も励起状態から基底状態に戻ろうと作用を起こします。
具体的には、一度、外側の軌道に移動した電子が元の内側の軌道上に戻ることです。
ただ、内側では外側ほどのエネルギーを必要としませんので、内側に戻るためには余分なエネルギーを消費する必要があります。
それが、電磁波(光)として放出するです。
余分なエネルギーを光にして発散し、励起状態から基底状態へと戻るのです。
この時に発せられる光が「蛍光」と呼ばれ、蛍光現象がルミネセンスと言われます。
このルミネセンスは、放射線計測時にも使用される作用ですので、とても重要です。
補足として・・・
今回、電離と励起に関してまとめましたが、電子線を主な放射線の種類として話ました。
これは、電子線など荷電粒子線(電気を帯びている粒子線)は直接電離放射線とも呼ばれ、固有で電離と励起を起こす作用を持つ放射線だからです。
では、X線やγ線、中性子線のように非荷電粒子線(電気を帯びていない粒子線)では電離や励起が起こらないのか。 というと、そういうわけではありません。
ただ、非荷電粒子線は電離や励起を起こす前に、別の相互作用を起こす必要があります。 光電効果、コンプトン散乱、電子対生成、光核反応などがその例です。
そのため、非荷電粒子で今回の話題をまとめようとするともう一段階の相互作用の内容をかませる必要があったので、便宜的に電子線の話としてまとめてみました。
光子などの相互作用に関しては、別の機会にしたいと思います。