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線減弱係数と質量減弱係数の違いとは?

私が、教科書で勉強していたころ、この減弱係数の違いには混乱させられた記憶があります。

 

それは、線減弱係数やら質量減弱係数、他にただの減弱係数と3つの単語の区別がつきにくい形で載っていることがあったからです。

 

おかげで、「線減弱係数と質量減弱係数が違うのはわかるけど、線も質量もついてない減弱係数とはどっちの減弱係数なの?」と悩んでしまってものです。

 

同じように悩んだ方はいるかどうかはわかりませんが、今回は線減弱係数、質量減弱係数についてまとめてみたいと思います。

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断面積と減弱係数とは?

減弱係数とは、光子(X線やγ線)が物質中を通過するときにどのくらい相互作用を起こす確率が高いのかということを表しています。

 

そのため、数値が高ければそれだけ相互作用を起こしやすく、数値が低ければ相互作用を起こしにくいということになります。

 

と、相互作用という言葉を繰り返し使っていますが、少しだけ復習したいと思います。

 

そもそも、光子(X線やγ線)は物質中に照射されると、光子と物質がお互いに作用しあうことで、進行方向を変える散乱や物質にエネルギーを与える吸収を起こします。

 

この散乱や吸収のことが相互作用です。

 

光子の相互作用は主に以下の4つです。

 

➀干渉性散乱

➁光電効果

➂コンプトン効果

④電子対生成

 

(それぞれに関して、説明するとそれだけで量が増えすぎていしまうので、また別の機会にすることにします。)

 

ただ、相互作用というのは、光子を物質中に照射すれば必ず起こるものではありますが、その起こる確率というのは、その物質の種類や光子のエネルギーに左右されます。

 

この相互作用を起こす確率を定量的にしたのが断面積と減弱係数の2つです。

 

断面積は、減弱係数と定義が少し似ているので簡単に触れておきたいと思います。

 

・断面積とは?

断面積とは、減弱係数と同様に、光子が物質中に照射された際に相互作用が起こる確率を示したものです。

 

その単位は、【b:バーン】と呼び、m⁻²で表現されます。

 

断面積とは、的にボールを当てるゲームをするものだと考えるとわかりやすいかもしれません。

 

離れたところに的を用意し、それに向かってボールを投げるゲームをするとしましょう。的は大きいのと小さいの2つです。

 

まず大きい的へ投げる場合、その的が人よりも大きいなど、大きければ大きいほど、ボールを的に当てるのは簡単です。

 

一方、小さい的だとどうでしょう。

 

もし、的がボールと同じくらいの大きさで離れたところ投げても簡単には当たらないはずです。

 

この、的に当たりやすさが断面積です。

 

断面積が大きければ、ボールは当たりやすく相互作用も起こりやすいですし、逆に小さければボールが当たりにくく、相互作用も起こりにくいのです。

 

つまり、断面積は相互作用の起こりやすさを面積で表しているようなものです。(単位からも想像できるかもしれませんが・・・)

 

そして、その起こりやすさは放射線の種類、エネルギー、物質にも依存し、光子の原子あたりの相互作用の断面積とは、上記の4つの相互作用のそれぞれの断面積の総和で表されることになります。

 

 

・減弱係数とは?

では、減弱係数は断面積とはどう違うのでしょうか。

 

最初にも書きましたが、減弱係数も光子と物質との相互作用の起こしやすさを表したものです。

 

ただ、減弱係数は、光子が物質中を通過する際の相互作用の起こりやすさを表しています。

 

どういうことか。

 

断面積の説明では、的にボールを当てるゲームで想像をしてもらいました。つまり、広い狭いなど面積の大きさが相互作用を表していたのです。

 

一方、減弱係数は物質を通過中の起こりやすさなので奥行きの相互作用の起こる確率を表しています。

 

このことは障害物競争に例えるとわかりやすいかもしれません。

 

誰でも簡単にクリアできる障害物競争があったとしましょう。障害物は簡単なので、足止めもできないほどです。この場合、障害物が多くあれば多少の体力を削ることはできるかもしれませんが、参加者は簡単にゴールまで到達できるはずです。

 

つまり、障害物が参加者に何らかの作用できる機会が少ない状態です。

 

 

一方、ゴールすることすら困難な障害物競争ではどうでしょう。障害物の一つ一つが困難であるため、参加者は障害物を一つ超えるごとに体力を著しく奪うことになります。これは、障害が困難で、コース距離が長いほど顕著です。

 

つまり、障害物の1つ1つは参加者に何らかの作用を起こしやすい状況であるといえます。

 

光子も同様です。

 

進みやすい物質であれば、長い距離を進もうとエネルギーを奪われにくいので遠くまで到達することができます。逆に、光子にとって透過しにくい物質であれば距離が進むほどにエネルギーを奪われ、遠くまで到達できずに吸収されることになります。

 

この奥行きの相互作用を表したものが減弱係数となります。

 

ただ、障害をものともしないような屈強な人であったり、底知れない体力を持った人が障害物を乗り越える力が強いように、光子もそのエネルギーによって相互作用が起こる確率が変化します。

 

また、障害物競走でゴールにたどり着く人数を競った場合、少ない人数では少ない人数しかゴールできません(脱落者がいれば尚更です。)が、多人数で参加すれば、例え脱落者がいても、ゴールにたどり着く人数は、小人数が参加したときよりも多くなるかもしれません。

 

光子も同様に、多量の光子が物質中に照射されればその分、多くの光子が物質を透過しやすくなるため、相互作用によって減弱する量は相対的に減ることになります。

 

といったように、減弱係数は放射線の種類やエネルギー、物質の種類にも影響される値であるのです。

 

そんな減弱係数ですが、主に2つわかれています。

それが、以下の2つです。

➀線減弱係数

➁質量減弱係数

 

ここからは、その二つの違いをまとめていきたいと思います。

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線減弱係数とは?

線減弱係数とは、物質中を通過する光子が単位長さ当たりに相互作用を起こす確率のことです。

 

単位長さ当たりなので、表す単位は【㎝⁻¹】となります。

 

なので、障害物競争の話に戻すと、決まった距離を進んだ時にどれほどの体力を奪われ、方向を変えてしまうことになるのかということを考えた値になります。

 

もちろん、コース難易度にも影響されるので、それに該当する物質の種類にも影響を受けることになります。

 

ここで、ひとつ思い出していただきたいことがあります。

 

それは、光子による相互作用とは決して1つではなかったということです。

 

線減弱係数は、単位長さ当たりの相互作用の起こる確率を表したものなので、その中には、光子と物質との主な4つの相互作用について考える必要があるのです。

 

そのため、一般的にいわれる線減弱係数はその4つの相互作用の合計の値ということになります。

 

式で表すと、以下の通りです。

 

 

ここからも線減弱係数は、相互作用である散乱・吸収のごとの起こりやすさの合計であるといえます。

 

また、線減弱係数は「平均自由工程」から求めることも可能です。

 

平均自由工程とは、光子がはじめに相互作用を起こす距離のことです。この平均自由工程の逆数が線減弱係数となります。

 

では、この線減弱係数はどのような場合に使用されるのか。

 

それは、光子を物質に照射する場合に、物質に入射する前と通過後の光子の強度の変化を求める場合です。

 

光子数は、物質中を通過するとき指数関数的に減弱することが知られており、その式を線減弱係数を用いて表すと以下の通りになるのです。

 

I₀:照射された初期の光子数

I:物質を通過後の光子数

μ: 線減弱係数、x:距離

 

ただ、この式には2つ考慮しなければならないことがあります。

 

それは、➀光子エネルギーと➁光子の線束(幅)に関する内容です。

 

そもそも、線減弱係数は物質の種類や光子のエネルギー、数によって変化する特徴を持っています。

 

ですが、この式は光子エネルギーが単一である場合を過程したものであるのです。

 

確かに、光子の一種であるγ線では決まったエネルギーが照射される場合がありますが、逆に、様々なエネルギーが混ざっている場合もあるため、この場合は単純に当てはめることができません。

 

また、上記式は、光子の線束が細いを過程しています。

 

光子は物質を通過中に新たに散乱線を起こすことがあります。

 

散乱線は細い線束から発生した場合、その影響を無視できるほど小さいのですが、広い線束で発生した散乱線の場合、線束分だけ物質通過後の光子数(I)増えたようになってしまい、結果として過大評価になってしまうのです。

 

この場合、ビルドアップ係数【B】による補正を用いた以下の式を用いることで影響を抑えることが可能です。

 

 

 

 

線束が細い場合はB<1、広い場合はB>1といったように補正を加えることで光子強度を補正するとより正確な値に近づくことになります。

 

ちなみに、I₀がちょうど半分(1/2)になる物質の厚さを半価層と呼ばれます。アルミニウムを使用して測定される機会画多いです。

 

 

質量減弱係数とは?

では、最後に質量減弱係数についてまとめていきたいと思います。

 

ここまで読んで頂いた方は、結構、疲れていると思いますが、この話はすぐに終わるので安心してください。

 

質量減弱係数とは、物質中を通過する光子が単位質量当たりに相互作用する確率を表したもので、線減弱係数を物質の密度で割って計算することで求めることができます。

 

 

 

単位は【㎝²/g】となります。

 

質量減弱係数の最大の利点は、物質の密度による影響を無視することが出来ることです。

 

簡単な例とし水の場合、液体と気体(水蒸気)、個体(氷)では物質の密度も異なりますし、それぞれの中を歩こうと考えた時に密度の低い水蒸気ほど歩きやすく、密度の高い氷は砕きながら出ない限り進むことができないので、それだけ歩きにくく体力を奪われることになります。

 

それと同様に、イメージからも光子の通過しやすさも変わることが想像できるのではないでしょうか。

 

実際、線減弱係数の場合、物質の密度に影響されその値も変化し密度が高いほどにその値は高くなります。

 

しかし、同じ物質間で相互作用による影響を比較する場合、密度に影響された値は比較しくいものとなっています。

 

そこで、質量減弱係数を用いることで純粋な物質での相互作用を比較することができるのです。