MRIという検査は、特にアーチファクトが多いのが特徴です。そのひとつで特に押さえておきたいのがトランケーションアーチファクト(打ち切りアーチファクト)と呼ばれるものです。
今回のは、この打ち切りアーチファクトについてまとめてみたいと思います。
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打ち切りアーチファクトとは?
打ち切りアーチファクトとは、画像上では平行な明暗線として、大きなコントラスト差がある場所近くに現れるもののことです。
では、どうしてこのアーチファクトが画像上にでてしまうのでしょうか。
これは、フーリエ変換と信号の周波数成分の数が原因で起こるものなのですが、もう少しだけ詳しく順序をたてて説明していきたいと思います。
MRI画像とは、収集された信号をk空間に埋めていき、それをフーリエ変換することで作られています。
k空間に埋められた時点のMR信号は、フーリエ変換によってその周波数成分に分解されているのです。フーリエ変換された信号は戻すことはできないかというとそうでもありません。実は、逆のことをすると信号を作りなおすことも可能です。それには、多数の周波数成分を得ることが必要ですが、基本的にMR信号はフーリエ変換という鍵を元に可逆的な変化であるといえるのです。
基本的には、信号はどんな形状であっても再現することができます。
ただ、この実現には、再現するための周波数成分の数が問題になることを認識する必要があります。
先ほどから、信号から周波数成分にすることや周波数成分から信号を再現することは言葉で言っているため、一見簡単に感じるのですが、信号再現をする際には、必ず問題にぶち当たってしまうのです。
どういった問題かというと。
画像再構成を行う過程で使用できる周波数成分が、MR信号のサンプリング数によって制限されているという問題です。といっても、わかりにくいので具体例を用いることにしましょう。
下の図のように、矩形波と呼ばれるような信号を得たいと考えたとしましょう。この得たい信号というのは、急速に上昇して水平になり、急激に下がっているというようなものです。つまり、低信号⇒高信号⇒低信号というような、メリハリのある信号で、口でも伝えられるような形をしています。
しかし、これを再現するのに使えるのは、波のような曲線の周波数成分です。そのため、矩形波のような、四角い線を表そうとしても、そのとがった角というのを作るのが難しいのです。とがった部分を作るには、様々な曲線を組み合わせればいつかはできるのですが、使用できる曲線の数には限りがあります。
これは、MR信号のサンプリング数に起因するのですが、数が限られているために、信号を再現するための作業は、途中で打ち切られてしまいます。結果、得たい信号を100%再現することが出来ないということになってしまうのです。実際に得られる信号は、とがった角ではなく、青の線のように多少の波打ちが見られものになります。
このMR信号のサンプリング数が制限される理由には、時間的問題が挙げられます。
多すぎる周波数成分のフーリエ変換には非常に長い時間を必要とするためです。MR検査とは、常に検査時間に考慮しなければ、どんどん長くなってしまいがちなのです。
そして、この影響がMRI画像上に現れたものがトランケーションアーチファクトとなります。
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画像への影響とは?
最初のほうに言いましたが、トランケーションアーチファクトは大きなコントラスト差が存在する場所に平行して現れる、暗い線と明るい線が特徴です。
これらの線は、”周波数成分の総数”が制限され、作業が打ち切られていることが原因で起こるものです。打ち切られることで起こるアーチファクトなので、打ち切りアーチファクトなのです。
このアーチファクトが問題となりやすいのは、脊髄の矢状断像(サジタール像)です。
脊髄上に線が作成され、空洞のような病変としてとらえられてしまうことがあるため、事前にこのようなアーチファクトがあることを知っている必要があります。
打ち切りアーチファクトがでやすいのは?
MRIのアーチファクトは基本的には、出現する方向が決まっているものが多いので、最後にそれを押さえておきたいと思います。
といっても、選択肢となるのは、位相エンコーディング方向と周波数エンコーディング方向の二つです。
このアーチファクトは、画像作成のために限られた信号成分しか使用することができないという原因から起こるものです。ということは、二つの方向のうち信号成分が少なくなりやすい方向に出現すると考えることができます。
では、それはどちらなのでしょうか。
位相エンコーディング方向です。
位相エンコーディング信号成分数は、撮像時間と直結します。そのため、撮像時間をなるべく短くするためには、位相エンコーディング方向への信号収集は自ずと少なくなる傾向にあるのです。
結果、位相エンコーディング方向では、周波数成分の信号が少なくなることから、打ち切りアーチファクトがより顕著に現れることになります。
信号収集の少なさが招くアーチファクトなので、位相エンコーディングステップ数の増加が軽減への対策となります。