MRI原理ーフリップ角とは?ー

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グラディエントエコーシーケンスについて学び始めると避けては通れないのがフリップ角と呼ばれるRFパルスです。

 

「90°より小さい角度のRFパルス」としか教わることがないため、どんな時に使用され、どんな効果があるのかわからないままな方も多いのではないでしょうか。

 

今回は、フリップ角(フリップアングル)についてまとめてみたいと思います。

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フリップ角とは?

まず、フリップ角がどんなものか想像する前に、ひとつだけ、固定概念を取り除くことから始めましょう。

 

どのような固定概念かというとスピンエコーシーケンスから思い浮かぶ90°、180°RFパルスについてです。

 

MRIをも学ぶ上で、最初に覚える基本的なシーケンスはスピンエコーシーケンスと呼ばれるものです。

 

MR装置という大きな磁石の中に入いることで体内のプロトンの向きは補正され、90°RFパルスで位相を揃え横磁化を発生させ、位相がバラバラになる過程で縦緩和、横緩和という現象が起こっていきます。そして、180°RFパルスによって再度、位相を揃えてMR信号を得るというのが、簡単なスピンエコーシーケンスの内容です。

 

『90°RFパルスと180°RFパルスは、プロトンの位相を揃え、横磁化を発生させためやらMR信号を得るためには不可欠である。』といったような誤解を持っているのであれば、それはグラディエントエコーシーケンスとフリップ角を理解するうえで邪魔になります。

 

なぜなら、MR信号を得るために90°RFパルスが絶対に必要ということはないからなのです。

 

実際に、グラディエントエコーシーケンスでは、90°RFパルスが使われず、40°のような90°よりも小さな角度を使用するのが一般的です。

 

そしてこの、40°のような90°よりも小さな角度で表せられるRFパルスがフリップ角と呼ばれているのです。

 

 

なので、フリップ角とは、90°よりも小さな角度という意味で使用されており、例え、1°、10°、20°、45°、70°といったもので90°よりも小さな角度であれば全てフリップ角ということになります。

 

「このシーケンスはフリップ角を使用しています。」と言われるだけだと、どの程度、プロトンを横に倒すだけのRFパルスが使われているのか、具体的にはわからないのです。

 

スピンエコーシーケンスで使用される90°RFは上を向いた全体の縦磁化を完全に横へと向けることができました。この、ひと時は、縦磁化がゼロになっていることになります。一方、フリップ角の場合、上を向いた全体の縦磁化を少しだけ横に倒す力しかありません。縦磁化は残り、そのうえで横磁化が発生していることになるのです。

 

このことがどんな効果を効果をもたらすのか、利益の点から見ていきたいと思います。

・フリップ角の利点とは?

縦磁化を90°RFパルスで横に倒すと、縦磁化は全てなくなり、ゼロになります。結果的に、縦磁化がゼロから回復する時間、一定のTRを待ってから、次の測定を行うことができるようになるため、一定の待ち時間が余儀なくされるのです。

 

では、フリップ角の場合ではどうか。

 

フリップ角のRFパルス(例えば、40°パルス)を使用すると、縦磁化の一部は残っていますが、縦磁化が全て回復するまで待つ時間は、90°RFパルスを使用したときに比べ短時間で済みます。つまり、測定を早く繰り返すことが可能になることを意味し、90°RFパルス時よりも短いTRを選択することができるようになります。

 

 

MRIの撮像時間はTRに比例するという性質を持っているため、結果的に、短時間撮像ができることになるのです。

 

フリップ角の使用した場合の最大の利点は、TR短縮による撮像時間を短くできることにあるといえます。

 

撮像時間が短くなれば、より多くの画像、すなわち単位時間当たりに多くのスライスを得ることが可能となり、より広い撮像領域を与えられた時間内に撮像できることになります。

・フリップ角の欠点とは?

では、90°RFパルスなど必要ないのではないか。

 

そう思わされることも多いのですが、決して、そんなことはありません。トレードオフの関係であるように、なにか利点を増やせば、必ず違う欠点が浮かび上がってしまうものなのです。

 

フリップ角を使用した場合の欠点とはなにか。

 

それは、SN比の低下です。

 

90°よりも小さいフリップ角では、”通常の90°RFパルス”よりも水平面に傾いた磁化が少なくなっています。つまり、発生する横磁化が小さくなっているのです。しかし、横磁化の大きさは後に受け取る、受信信号の強さを決める因子になっており、フリップ角を使用するグラディエントエコーシーケンスでは、より小さな信号から画像を作ることになってしまうのです。

 

これは、信号低下はSN比の分子の値が小さくなることを意味しており、SN比は低下することになります。

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フリップ角によるコントラストとは?

フリップ角は、撮像時間やSN比に影響を与えるだけでなく、画像コントラストにも影響します。

 

そのため、T₁やT₂強調といったコントラストへの影響についてもまとめたいと思います。

 

少し復習を挟みますが、スピンエコーではTR(繰り返し時間)とTE(エコー時間)によって決まっていました。簡単にまとめると、以下のようになります。

 

・T₁強調画像;短いTRと短いTE
・T₂強調画像;長いTRと長いTE
・プロトン密度;長いTRと短いTE

 

TRとTEだけで決まっていたスピンエコーシーケンスとは違い、グラディエントエコーシーケンスでは、これにフリップ角という因子が追加され、フリップ角の調整によって画像コントラストを決定できるようになるのです。

 

どういうことか。

 

説明のために具体的に1°のRFパルスを付加したときのことを考えてみましょう。

 

1°RFパルスでは、ほとんど水平方向に傾けられることはなく、ほぼ完全な縦磁化を持っているような状態です。この場合、組織からはT₁の違いによって識別できるような信号をほとんど得ることができません。なぜなら、組織間のT₁緩和時間の違いが小さいため、その差から生じる信号間の違いを小さくしていることになります。

 

つまり、T₁によるコントラストが最小限に留められている状態です。

 

逆に、大きいフリップ角を使うと、縦磁化の違いはハッキリとわかるようになります。90°RFパルスを使用するスピンエコーでは、短いTRによって、緩和時間の違いを強調してT₁強調画像を作っているようにです。そのため45~90°の大きいフリップ角は、T₁コントラストを作り出すことができることになるのです。

 

これらのことを念頭において、スピンエコーシーケンス同様にグラディエントエコーシーケンスにおけるコントラストの関係を考えると以下のようになります。(ちなみに数字は参考値ですので、実際には、施設間で少し異なると思います。)

 

・T₁強調:短いTR(<50ms)、短いTE(5~10ms)、大きいフリップ角(>70°)

短いTRは、縦磁化の差を反映しているので、T₁効果を示す。短いTEは、横磁化の差を反映していなので、T₂効果はほとんど示されない。大きいフリップ角は、T₁緩和の違いを反映するのに不可欠であり、結果、T₁強調画像となる。

 

・T₂強調:長いTR(>100ms)、長いTE(15~25ms)、小さいフリップ角(5~20°)

長いTRは、縦磁化を完全に回復させるたるため、T₁効果は示されない。長いTEは、横磁化の違いを示すためT₂効果を示す。小さいフリップ角は、T₁回復の違いおよびT₁効果を最小限にする。よって、T₂強調画像になる。

 

・プロトン密度強調:長いTR(>100ms)、短いTE(5~10ms)、小さいフリップ角(5~10°)

長いTRはT₁効果を示さない。短いTEはT₂効果を示さない。小さいフリップ角はT₁回復の違いを最小限する。よって、プロトンの密度がそのままコントラストに反映されるプロトン密度画像になる。

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