MRIでは、傾斜磁場と呼ばれるものがとても重要な役割を果たしています。
しかし、傾斜磁場について学ぼうとしても、位相エンコーディング、周波数エンコーディングやらの言葉が出てくるばかりです。
そこで、傾斜磁場についてもっと原理的な部分からまとめてみたいと思います。
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傾斜磁場とは?
そもそもMRI装置には、一番大きな磁場である静磁場を発生させている、大きな磁石が搭載されています。この磁石が発する磁場が静磁場(B₀)と呼ばれ、よく0.5T(テスラ)、1.5T、3TMRI装置などとその大きさを表現されています。
装置が常に発している磁場が静磁場というわけです。それに対し、傾斜磁場はMRI装置の特定の方向に対して線形に磁場強度の変化を与えるという仕事をしており、撮影中にだけにある磁場であるといえます。
どういうことか、もっと詳しくまとめていきましょう。
まずは、傾斜磁場がどのように作り出されているのかについてです。
傾斜磁場は傾斜磁場コイルによって発せられます。傾斜磁場コイルとは、コイルに電流が流れた時に磁場を発生させる電磁石のことです。電流を流すと右ねじの法則に従って、磁場を発生させるため、電流を流す方向を逆にすれば、発生する磁場の方向も変わります。
理解を深めるために、少し具体的な例を加えたいと思います。
MRI装置内に、2個のコイルを用意して、静磁場に対してZ軸方向(患者さんの頭から足方向)に設置します。それぞれのコイルには同じ強さでかつ、逆方向に電流を流すとします。
すると、どうなるか。
静磁場(B₀)に対して付加的な傾斜磁場が出来上がり、Z軸の一方ではB₀磁場を増強するように、その反対方向では減弱するように作用することになります。ただ、『磁石のど真ん中』に相当する部分では、傾斜磁場の影響は受けていません。この磁石のど真ん中の部分をアイソセンタと呼び、磁場の中心点を意味しています。この位置だけは磁場強度が常に一定に保たれており、同様に組織の歳差運動周期も一定になっているのです。
傾斜磁場がどのように発生し、どのような働きはわかりました。では、傾斜磁場とはどのような役割を果たすために必要なのでしょうか。
それは、MRI装置内における空間の位置情報を得るためです。つまり、撮影する被験者の体内の位置情報を得るために必要なのです。
人の体は基本的にみな、組織・臓器の位置というのは決まっています。肝臓は右であったり、脾臓は左であったりとです。(内臓の位置が逆の人もいますが・・・)
もし、傾斜磁場がなかった場合を考えてみましょう。
被験者がMR装置内に入ると、被験者の体内にある組織の歳差運動は静磁場によって影響を受け、その向きや動きが統制されていきます。みんな同じ向きで同じ動きをするようなもので、軍隊のように静磁場の命令にだけ従っている状態です。しかし、軍隊が整列しているときに、顔が見えず、同じ服装であれば、どこに誰がいるのかはわからりません。そこで、向きや動き、服装を変えるなどの工夫が必要になるわけです。
MRIにおけるその工夫が傾斜磁場です。静磁場だけの環境では、得られる信号はみな似たような情報となってしまい、どこになにがあって、この信号が得られているのかというのが不明確です。
しかし、傾斜磁場によって磁場強度を変化させることで組織ごとの歳差運動周期に変化が現れます。組織の動き方が場所によって異なってくるということです。そうやって、どこからの信号なのかという明確な位置情報を得られ、正確な画像を作ることができるのです。
傾斜磁場は、どこで何があるのかという情報を得るために欠かせない存在であるといえます。
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傾斜磁場の種類とは?
では、MRIで使用される傾斜磁場とはどういったものがあるのでしょうか。
位置情報を得るためには、高さ(z軸)、横方向への距離(x軸)、縦方向への距離(y軸)の3種類の情報が不可欠です。
よって、傾斜磁場には以下の3種類です。
➀頭から足方向のz軸
➁左から右方向のx軸
➂前方から後方向のy軸
です。これに対応するため、傾斜磁場コイルがx、y、zに応じて設置されていることになります。
そして、様々な傾斜磁場を組みわせることにより、被験者を動かすことなく、ある一点の情報を得ることが出来ます。
傾斜磁場の単位とは?
傾斜磁場の役割・種類をまとめたとことで、その強さがどのように表せるのかまとめたいと思います。
傾斜磁場は静磁場のT(テスラ)に比べ、小さいミリテスラ(mT)ほどの大きさです。しかし、これだけでは、傾斜磁場がどのくらいの傾斜を持っているのか、坂がどれほど急であるのかというのはわかりません。
そもそも『傾斜』という言葉にには、一定の距離内で何らかの変化(増減)が起きていることも意味しています。
よって、傾斜磁場の強度を表す際には、磁場が1メートルにつき、何ミリテスラ変化しているのかという表記がなければならないのです。
これは、時速や分速といった速さと同様です。時速60kmと分速60kmでは速さが全くのけた違いです。なので、どの程度の変化が起こっているのかという表現が絶対不可欠となります。
具体的には、設定された傾斜磁場強度を立ち上げるのに、どのくらいの距離と時間を要するのかを表すため、スルーレートと呼ばれる単位である【ミリテスラ/m(メートル)×ms(ミリ秒)】といった感じになります。
ライズタイムとは?
傾斜磁場とは、コイルに流れた瞬間に発生するものではありません。
傾斜磁場が発生するまでには、コイルに電流が流れ、電気が充満されていくことで、あらかじめ設定された強度まで立ち上がることになります。
傾斜磁場が完全に立ち上がるのに必要な時間がライタイム(raise time)です。
では、なぜこの値が必要なのでしょうか。
MR画像を得るためには、設定値に対して、正確かつ再現性のある傾斜磁場が必要です。さらに、傾斜磁場速度が大きいほど、より迅速に撮像ができます。
画像収集中には、様々な目的によって傾斜磁場が使われますが、短時間で全ての傾斜磁場をかけることが出来れば、結果的に、より早く検査を終えることができ、被験者の負担が軽減されることに繋がります。
傾斜磁場が強力になると・・・
傾斜磁場はMR画像に現れる多くの情報がどのようなものか決める重要な因子です。
そのため、傾斜磁場の強度と精度は重要であり、強度だけでいっても強い傾斜磁場ほど、高い解像度、より薄いスライス、より小さい画素を実現させることができます。
また、傾斜磁場のスルーレートが大きくなると、
➀傾斜磁場を反対方向に切り替えて発生させる撮影法では、切り替えが速くなり、時間を短くなる。
➁撮像時間が短くなるため、より多くの枚数を撮影できるようになる。
といったことが可能になるのです。
傾斜磁場が強く、より速く立ち上がることはMR検査では、大きなメリットであるといえることになります。