現在、放射線関連の画像はほぼと言っていいほどのデジタル化が進んでいます。画像がデジタルになることで、画像に対して様々な処理でできるようになり、アナログ画像では得られなかった画像を提供することが可能になったのです。
これは、診療に必要な画像、得たい情報を強調した画像など状況に応じた画像を得られやすくなったことでもあります。
ただ、『ほしい画像』を得るためには、【画像フィルタ処理】というアナログ画像では必要のなかった処理が必要になり、その知識も最低限求められるようになりました。
そこで、今回は画像フィルタの基礎であるスムージング(平滑化)とエンハンス(先鋭化)と呼ばれるフィルタ処理についてまとめたいと思います。
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アナログ画像とデジタル画像とは?
まず、少しだけですが、アナログ画像とデジタル画像の違いについて触れたいと思います。
・アナログ画像とは?
アナログ画像とは、実際に描いた絵やフィルム写真、習字の文字のようなもののことです。これらの共通点は、線や色の移り変わりが連続的に表現されていることです。そのため、拡大しても線が滑らかに見ることができます。
・デジタル画像とは?
デジタル画像とは、画素と呼ばれるとても小さな箱の集まりでできた画像をいいます。小さな箱の集まりでできた画像なので、例えアナログ画像ように見えても、拡大して良く見てみると沢山のマス目が見えるの特徴です。つまり、画像はバラバラの箱が集まって、パズルのように組み合わさることで出来上がっているのです。
・アナログとデジタル画像
ここまでだと、デジタルよりアナログのほうが優れているように感じますが、実際には、デジタル画像のほうが利点が多いといえます。
まず、アナログ画像は連続的に表現されているため、マス目などが気にならないという利点を持ちますが、その一方でその色がどのような色なのか、またどのような線で表現されているのかというのを伝える場合、見た人の主観でしか伝えることができません。
つまり、太い線や細い腺、赤や黄色、青などは伝えることができてもどの程度太い線なのか、どのくらい濃い赤なのかといった具体性に欠けているのです。
デジタル画像では画素という小さな箱の集合でできており、また、箱それぞれには画素値と呼ばれる具体的な数値を持っています。そのため、太い線がいくつの箱で構成されているから、何mmの線なのか、色がどの程度濃いかを具体的な数値をもって表現することが出来るのです。
また、デジタル画像は数値を持った箱の集合であるため、コンピュータなどその数値を意図的に変化させるといった処理が可能です。数値を変化させて、線の太さや色の濃淡を変え、自分好みの画像を得やすいのです。
その処理を行う手段として使用されるのが、画像フィルタです。
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画像フィルタとは?
それでは、今回の本題である画像フィルタについてまとめていきたいと思います。
画像フィルタとは、画像に対して画素間(ピクセル間)のつながりを処理することで『ノイズの低減』、『関心部位の描出』を行います。いわば、画像改造のための処理ツールといったところです。
画像フィルタは、大きく2種類に分けられます。スムージング(平滑化)とエンハンス(先鋭化)です。先ずは、2種類のフィルタのイメージを掴むためいにも、その概念図を下に示します。
上の図を見て感じ取ってもらいたいことは、
スムージング(平滑化)とは、ギザギザとしたものを平坦的(直線的)にすること。エンハンス(先鋭化)とは、ギザギザしているところをより強調してギザギザさせること。
といったことです。
といっても、この二つの画像フィルタがどのような効果を画像にもたらしているのか、また不明瞭なので、さらに具体的にそれぞれを説明していきたいと思います。
スムージング(平滑化)とは?
スムージングフィルタとは、ギザギザしたものを均す役割を果たすものです。別の言い方をするならば、平均化させるといったところでしょう。
では、画像のギザギザとはなにか、また、画像を平均化させることでどのような効果を得ることができるのでしょうか。
この場合でいう、画像上のギザギザとは、ノイズ(雑音)や画像中に含まれる縁取り線です。(みなさんも絵を描くとき、最初に輪郭から描く方も多いのではないでしょうか。その輪郭(縁取り線)が画像上のギザギザに相当します。)
そのため、スムージングは、画像上のギザギザを平坦化(平均化)させる効力を持つため、主に『ノイズの低減』を目的に使用されることになります。
スムージングを例えるならば、野球のグランド整理にしようされるとんぼというT字型をした道具のようなものだといえます。
綺麗でならされたグランドとは、石やくぼみなどがなく、人が走ったりボールが転がっても躓いたり、イレギュラーなバウンドをすることはありません。
しかし、グランドで練習や試合を行えばスパイクの跡がついたり、ボールが強くはねたことよる凹みができたりとグランド環境を悪化させる要因にさらされ、荒れたグランドになっていきます。
その状態をそのままにしておくと、結果的に窪みで躓きケガをしたり、ボールがイレギュラーバウンドをしたりと影響を及ぼすことになります。そのため、日々、トンボと呼ばれる道具を使用しグラウンド整理することが重要となるのです。
凸凹としたグランドは、画像でいうとノイズの多い画像です。ノイズの多い画像は、荒れたグランド同様、見えるものを見えなくさせたり、誤解が生まれるような画像であったりと、通常では行らないようなイレギュラーなことが起こるものです。
その対策として行われるのが、スムージングです。
スムージングにより、ノイズが多く凸凹とした画像を平坦に整理することで、ノイズによる影響を減らす効果が期待できるのです。
では、スムージングフィルタとはどのようなものを言うのか以下の3×3のフィルタ例を用いて簡単に説明したいと思います。
スムージングフィルタは、Aがプラスの値を持ち、B、C、Dもプラスもしくは0の値を持つように設定されたものです。通常、A+B+C+D=1.0になるように設定します。
Aの値が小さくなればなるほど、(AとB,C,Dの数値差が小さくなるほど)、より強いスムージングフィルタとなり、画像を強く平坦化させる効力を持ちます。
スムージングは、何回も重ねて行うことも可能です。そのため、その回数が多くなればなるほど同様により強いスムージングフィルタとなり、ノイズの低減に寄与します。
スムージングフィルタには、ノイズの低減という効果を持つ一方で、欠点もあります。それは、平坦化によって、画像の濃淡が少なくなるため、画像がボケて見えるようになることです。
先にも言いましたが、スムージングフィルタによって平坦化するのは、ノイズと輪郭線に相当するところです。輪郭線は線がクッキリしているからこそ、区切りがわかりやすいのですが、スムージングによってそれが整理されることで、どこが区切りになるのかわかりにくくなるのです。(結果的にボケて見える)
これは、野球グラウンドでいうとマウンドで考えるとわかりやすいかもしれません。
マウンドは他のところに比べ、高く山になっており遠くから見てもそれがわかりやすい場所です。しかし、マウンドを含めグランドを平坦にすればするほど、マウンドの山も低く、その周りとの高低差は小さくなってしまいます。終いには、マウンドのあった場所はプレートだけがその印となるようなものです。
よって、ノイズを減らす一方で、必要な情報も少なくしているということも認識する必要があり、強すぎるスムージングはボケた画像を作るということを覚えておく必要があります。
そんなスムージングフィルタは、CT検査ではノイズの影響が受けやすい部位に使用されることが多いです。
具体的にいうと、両肩に挟まれた頚部から胸部にかけての領域や骨盤内部といったような、骨に囲まれた領域です。骨に囲まれた部位は、X線の透過性が悪く、情報量が少なくなり、ノイズに晒されやすい環境です。
その対策として、撮影線量を上げる代わりにフィルタ処理を行うことも考慮されることがあります。
エンハンス(先鋭化)とは?
もう一つのエンハンスとはなんなのか?
エンハンスフィルタとは、ギザギザを強調する効果を持つフィルタです。なので、先ほどいう輪郭線を強調するために行われる処理となります。これは、別の言葉だと、エッジを強調すると表現されることもあります。
野球のグランドでいうと、凸凹をより激しくした状態であり、どこに凹みがあり、どこに凸があるのか遠くからでもわかりやすい状況となるのです。これを3×3フィルタを用いると以下のようなものになります。
エンハンスフィルタはAがプラスの値を持ち、B,C,Dがマイナスもしくは0の値を持つように設定されたフィルタです。通常は、A+B+C+D=1.0となるように設定します。
Aの値が大きくなればなるほど(AとB,C,Dの数値差が大きくなればなるほど)、回数が多くなればなるほど、より強いエンハンスフィルタとなります。
これによって、クッキリとした画像を得ることが可能になります。
しかし、エンハンスフィルタは画像のギザギザを強調するフィルタであることを忘れてはいけません。なぜなら、画像のギザギザには、ノイズ成分が多く含まれているからです。よって、強すぎるエンハンス処理は、ノイズの多い画像を作ることになるため注意が必要です。
では、エンハンスフィルタは、どのような場面で使用されるのか。
CT検査では、胸部領域の肺血管をより鮮明に描出するときや、骨を強調し骨折している場合などにわかりやすくする効果があり使用されています。肺野関数や骨関数といった呼ばれ方をするのは、みなエンハンスフィルタが関わっているのです。