造影CT検査では、良好な検査を行うためには撮影を行うタイミングが重要となります。それは、ダイナミック撮影と呼ばれる手法では特に顕著です。
そこで、撮影するタイミングを最適化する方法として行われるのが、テストインジェクション法とボーラストラッキング法の二つです。
今回は、この2つの手法についてまとめてみたいと思います。
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ダイナミック撮影とは?
先ずは、この二つの手法が使用されるダイナミック撮影についてまとめてみたいと思います。
ダイナミック撮影とは、動脈に焦点を合わせた撮影、または各臓器の血流状況を知るために行われる検査のことです。
CT検査とは、基本的にその一瞬を撮影している検査である言えます。臓器が動いている様子であるとか、血液がどのように流れているのか、腫瘍が合った場合に血液からどのように栄養を受け取っているのかなど、動態的な情報には乏しいのです。
そこで、造影剤を使用し、造影剤の流れる様子を経時的に撮影することで、血流や腫瘍への栄養状況など情報量を増やそうと行われるのです。
では、造影剤を使用した撮影をすればよいのではないか。
と、思う方もいるかもしれませんが、実はそうではないのです。
CTで行われる造影検査にも種類があり、一般的な造影撮影とダイナミック撮影とは区別されています。一般的な造影撮影は、造影剤を注入し、全身に造影剤が行きわたった時間に撮影を行うものです。
これだけでも、臓器の血流状況や病気の有無など、造影剤を使用しない検査に比べ情報量は増えることになります。
が、逆に造影剤が行きわたりすぎて、腫瘍が発見された場合にその腫瘍の性質がわかなかったり、動脈解離などの血管の病気では、動脈の避けた内側が本流になって血液がながれているのか、はたまた逆なのか、その他に出血が疑われる場合には、その出血がどこから起こっているのかというのが不明瞭になるケースがあるのです。
この造影検査とは、いわば物事の結果だけを教えてもらっているようなもので、その過程を知りたいと思う要望には応えることができていないのです。
一方、ダイナミック撮影は、臓器や血管、腫瘍に合った時間で経時的に撮影を行うため、動脈だけに造影剤が流れている瞬間や腫瘍への血流状況など様々な情報を知ることが出来ます。
つまり、ダイナミック撮影とは本来、静的なCT検査に動的な情報を取り入れることが出来るため、情報量が増え、より正確な診断や治療に繋がることになるのです。
一枚の静止画と、動画の違いと思っていただくのが一番からも知れません。
では、造影検査の全てをダイナミック撮影で行えばいいのか?
そうではありません。
この検査には2点問題があるのです。
2点の問題とは。
➀被ばく線量が多い
検査の性質上、何度も同じ部位を撮影することになります。
それに伴い、被ばく線量が通常の撮影に比べて多くなってしまうのです。
➁撮影開始のタイミングが検査目的や患者さんの個人によって異なる
基本的にこの時の造影剤は血管から注入することになるのですが、注入後の造影剤の動向は患者さんの血流状況に影響を受けることになります。
そのため、造影剤が体内を巡る速度は、心拍数や血液の拍出量など被験者の身体的な因子に影響を受けやすく、どうしても個人差がでてしまうことになります。
それは、例え同じ体格の人に造影剤を同じ注入速度で検査を行っても、同様です。
しかし、それでも、検査によって得られる画像情報には個人差がないことがベストであるといえます。
そこで、心拍数や拍出量など被験者側の因子による影響をなくすために、撮影タイミングを個々に合わせ撮影することが望まれることとなります。
そして、その方法としてテストインジェクション法とボーラストラッキング法があるのです。
ここまで、少し長くなりましたが、ここからは、本題である二つの方法についてまとめていきたいと思います。
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テストインジェクション法とは?
この方法は、その名の通り本番の撮影を行う前に試験的に造影剤注入し撮影を行う方法です。
その詳細とは。
先ず、本番の撮影を行う前に、少量の造影剤を注入し、一定時間同じスライスを撮影し、TDC(Time Density Curve:時間濃度曲線)の作成します。
そうすると、造影剤が注入されてからどのくらいの時間が経てば、目的の血管に到達し濃度が一番高くなるのかを知ることができます。
そこから、いつ撮影を行えば最適なタイミングとなり、診断に有用な画像を得られるのか予測がし、検査を行うのです。
この方法の一番の利点は客観性があり、本番の撮影が失敗が起こりにくいことです。
造影剤の注入量や速度は、テスト時と本番の検査時では違うのですが(速度は同じこともあります)、テスト時に得られるTDCから造影剤による濃度がピークを示すであろう時間は、計算で行われるため、撮影を行う技師によって個人差がでにくいのです。
そのため、撮影を行うタイミングには、主観が入りにくく、さらには、濃度のピークをかなり正確に予測することができるため、その後の失敗が少ないくなりやすいのです。
しかし、欠点もあります。
それは、
➀検査時間の延長
テスト撮影を撮影を挟むため、その分だけ検査時間を延長させることになります。
➁TDCの算出など煩雑な作業が増える
TDCの算出は装置で行えるのですが、算出までの操作は放射線技師が行うことになるため、普段の撮影では使用しない作業が増えるため、慣れないと難しく考えてしまうこともあるようです。
➂被ばく線量の増加
テスト撮影の分、被ばく線量は増加します。
➃被験者の状態によっては正確なTDCが得られないことがある
テスト撮影は、造影剤注入から一定の時間を決めて観察を行い、TDCを得ます。
しかし、造影剤の動向は、患者さんの全身状態に大きく影響を受けるため、状態が悪い患者さん場合、造影剤の動向が普段より遅くなってしまい、設定の観察時間が短く、良好なTDCが得られないケースがあるのです。
また、体格が大きい方に少ない造影剤を注入すれば、普段より濃度が薄くなってしまい、TDCの変化わかりにくいこともあるのです。
その時は、再度、造影剤の注入量や速度を変えてテスト撮影を行うのか、現在ある情報で本番の撮影を行うのか選択が迫られることになります。
一度に使用できる造影剤量は決まっているため、冷や汗を感じることもあるのでは・・・。
ボーラストラッキング法とは?
ボーラストラッキング法とは、指定したスライス断面で動脈への造影剤の流入をリアルタイムに観察し、目的の濃度に達した時点で撮影を開始する方法です。
実際の造影剤濃度の上昇を確認して撮影へと移行するため、心疾患など患者さんの全身状態による変化にも対応できることが利点です。
以前は、撮影を開始するタイミングは、造影剤の濃度が一定以上に到達してからと曖昧な点があり撮影する放射線技師によって任されていました。
そのため、技師によって撮影するタイミングが違ったり、撮影時の操作が難しくなったりと手に汗を握る場面がが多かったです。
しかし、最近の装置では、装置が自動で撮影を開始する設定を行えるこ都も珍しくなくなりました。
そのため、タイミングの個人差はなくなり、技師の手技も容易になったため、より安定した検査結果を供給することができるようになりました。
ただ、造影剤の注入後の病変への変化は、循環血流量や心拍数など個人差にゆだねられる面が多く、症例によっては必ずしも適切なタイミングにならないケースもあります。
画像を確認すると、もう少し撮影するタイミングが早ければ、もっと遅ければなど、後からたらればが絶えず、反省することも多々あります。
また、ボーラストラッキング法では、造影剤が多く使用しようされる場合が多いのが難点です。
造影剤の注入量が多いほど、その効果の持続時間は長くなります。
そのため、検査に失敗が起こりにくくなるのです。
撮影する技師も、失敗が患者さんへの不利益に繋がるため、失敗がコワイのです。
しかし、造影剤の仕様には腎機能に左右されることが多く、腎機能が悪くなっている場合には普段の半分の量で検査を行うこともあります。
その場合には、より撮影のタイミングがシビアになり、知識と経験がものいうこともあります。