放射線治療は決められた範囲に決められた線量が照射されていることが重要な領域です。そのため、事前に自分たちが使用している装置による照射がどのような線量分布を示すのかを把握する必要があるのです。
今回はそれに関連する因子としてPDD・TAR・TMRの違いについてまとめたいと思います。
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PDDとは?
PDD(percentage depth dose)とは、深部量百分率のことで、
教科書的な表現をするのであれば、水ファントム等の吸収体内で、ビーム中心軸に沿った任意の深さにおける吸収線量の基準点吸収線量に対する百分率となります。
なんだか、わかりにくい表現でイメージしにくいのですが、
簡単に考えるのであれば、水ファントムに放射線を照射したとき、基準の深さの吸収線量と任意の深さの吸収線量の比だと考えていただければ結構です。
深部量百分率はX線・γ線および電子線照射の線量計算に用いられる大事な指標の一つです。
測定は、SSD(焦点-表面間距離)を一定にしたの固定照射が基本であり、図にすると下のようになります。
上の図を元に式で表すと・・・(基準の深さの吸収線量をDr(A₀)、任意の深さでの吸収線量D(d、A₀))
となります。
実際の測定の時には、任意の深さにおける吸収線量は線量計を移動させながらいくつも測定しPDD曲線を描くことになります。
PDD曲線は放射線の種類によって、特徴が異なります。
X線・γ線
・X線・γ線は、物質中では、ほぼ指数関数的に減弱し、高エネルギーほと深部に到達、PDDが大きくなる特徴をもつ。
・X線は、表面から数cm深いところ(4~10MVでは、エネルギー(MV)の1/4(cm))にPDDが100%となるビルドアップピークがある。
・照射野が大きいほど、同じ深さの深部量百分率は大きくなる。(照射野が大きいほど、
散乱線による影響が増加するから)
・同じ照射野では、SSDが大きいほど、PDDが大きく、半影が小さい。
ただし、SSDが大きいほど、深部線量は小さくなる。
電子線
・高エネルギー電子線は、X線・γ線とは異なり物質中で多重散乱を起こし、その運動エネルギーがなくなると物質中で停止し、一定の飛程をもつ。
・エネルギーが高く成るほど最大深が深くなる。
・飛程が短く、最大深以降の線量が急激に下がる。
・エネルギーをE(MeV)とした場合、最大飛程は約E/2cm、治療可能域(80%深度)は約E/3cm。
・同じ照射野では、SSDが大きいほど、PDDが大きい。
PDDに影響を与える因子のまとめ
PDDの測定には、結果に影響される因子が毎回一定になっているか確認する必要があります。
➀線質:高エネルギーほど深部に到達するため、PDDが大きくなる。
➁照射野:照射野が大きいほど、散乱線の寄与率が増加するため、同じ深さの深部量百分率は大きくなる。
➂SSD(焦点ー表面間距離):同じ照射野でもSSDが大きいほど、PDDが大きくなる。ただし半影が小さい。逆に、PDDに影響を与えない因子として以下のものが挙げられます。
➀線量率
➁照射時間
➂管電流
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TARとは?
TAR(tissue-air ratio)とは、組織空中線量比のことで、空中における吸収線量と水中での吸収線量との比を表したものです。
なので、TARを測定する際には、線源ー検出器間距離を一定として測定することが大前提にあります。
その式は・・・
SAD(焦点ー組織間距離)またはSTD(組織ーターゲット間距離)一定照射法(回転・運動・固定照射)での約6MV以下のX線・γ線の照射時の線量計算に用いられるものです。ただ、6MV以上のX線では空中組織吸収線量の測定が困難であるためTARは定義できません。
TMRとは?
TMR(tissue-maximum ratio)とは、組織最大線量比のことで、基準点の吸収線量と組織中における最大の吸収線量との比を表します。
式で表すと・・・
となります。
SAD(焦点ー組織間距離)またはSTD(組織ーターゲット間距離)一定照射法(回転・運動・固定照射)でのX線・γ線の照射時の線量計算に用いられるものです。
3つの違いとは?
回転型の放射線治療装置では、一般に病巣中心にその回転中心を設定してビームを照射がする場合が多いです。
そのような運動照射の場合には、SSDが照射方向によって絶えず変化してしまうため、PDDで病巣線量を計算することができなくなってしまうのです。そこで、線源と病巣の距離を一定歳、その間にファントムを任意の厚さで配置し火を求めるTARやTMRが代わりに用いられることになります。
ただ、エネルギーが6MV以上となると、ビルドアップキャップを使用しても十分ビルドアップが行われないため、宮中組織吸収線量の測定が困難となります。なので、6MVまではTAR、6MV以上のX線ではTMRを用いるといった使い分けがされているのです。
それでも、PDDは水ファントムスキャナを用いた連続測定が可能で、実務的に測定が最も楽であるという長所があります。そのことからも、PDDからTAR・TMRを数式処理によって導き出すといったことに使用されるようです。