IVR(Interventional Radiology=インターベンショナルラジオロジー)の一つであるTACEは肝細胞がんに対する治療法の一つです。ただ、TACE時には、がんの位置や大きさの診断が重要となります。
その検査に行われるのがCTAPとCTHAです。
今回は、この2つの検査についてまとめてみたいと思います。
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TACEとは?
最初に、TACEについて簡単にまとめてみたいと思います。
TACEとは、Transcatheter Arterial Chemo-Embolizationの略であり、肝動脈化学塞栓術という治療法のことです。そのTACEは、肝臓の病気の中でも、主に肝細胞癌に対して行われるのが代表的です。
肝細胞癌は、進行すると肝動脈からの血流が豊富になり、癌へ栄養を与えるようになります。栄養を与えられた癌は弱るどころか成長する一方です。
そこで、癌を栄養している肝動脈までカテーテルを挿入し、抗がん剤と腫瘍内に停滞する性質を持つ油性造影剤を注入し、動脈の塞栓物質を注入することで、腫瘍細胞を壊死に追い込む方法です。いわば、密室による毒攻めみたいなものです。
動脈をせき止めるだけでも、腫瘍に栄養を行きわたらせないよう、兵糧ぜめにできるに、それに加え、事前に薬を与えることで、腫瘍にとっての毒攻めを行い、2重の方法により治療効果を高めているのです。
ただ、動脈を詰めるというと、他の臓器から考えてみると少し恐ろしいことをしているようにも見られます。なぜなら、肺の動脈が血栓などで詰まれば、肺動脈塞栓症、心臓の血管が詰まれば心筋梗塞とどちらも突然死の原因は、動脈のつまりだからです。
では、肝臓の動脈は詰めても大丈夫なのか?
もちろん!!大丈夫です!!!
肝臓は、他の臓器とは少し変わっており特殊な構造をしています。どんな構造かというと、肝臓には血管が3種類あるのです。
それが、肝動脈、門脈、肝静脈の3種類です。
他の臓器は、動脈から栄養を貰い、静脈に残りを流すのが通常です。しかし、肝臓の場合、およそ8割が門脈から、2割が肝動脈から栄養を得ています。
なので、主に肝細胞癌を栄養している動脈を塞栓してももう一つの門脈から十分な栄養を得ることができるためこのような治療法が可能となるのです。
・治療手順とは?
では、ここで整理の意味をかねて、手順を簡潔に示したいと思います。
➀入院と点滴の確保。
動脈にカテーテルを挿入するため、必ず入院が前提です。
➁血管造影室に入室。
手術室とは、また別の放射線を使った治療を行うのが主流の部屋です。
➂足の付け根を消毒。
カテーテルは基本的には、足の付け根から挿入し、そこから肝臓まで操作します。
➃大腿動脈にカテーテルの挿入。
➄上腸間膜動脈までカテーテルを挿入。
カテーテルの先から造影剤を投与し、血管の確認後。
上腸間膜動脈は分岐して大腸などに流れる動脈になり、大腸に栄養を供給するのが役目ですが、まれに先天的に肝動脈に分岐している場合もあり、この血管の有無を確認する。
また、門脈の造影を確認し、門脈の狭窄や閉塞がないことを確認します。狭窄や閉塞によって、門脈への血流が少ない場合、肝動脈を閉塞してしまうと、正常な肝臓への栄養が足りなり、治療が原因で肝機能の低下を及ぼす恐れがあるためです。
➅造影CT検査
➄と同じ動脈にカテーテルから造影剤を注入しながら、CT検査を行う。これがCTAP。詳細は後で。
➆腹腔動脈と肝動脈までを順にカテーテルを挿入。
動脈の分岐と腫瘍の染まりから腫瘍の大きさや数を確認します。
➇造影CT検査。
➆と同じ動脈に対して造影剤を注入しながら、CT検査を行う。これがCTHA。詳細は後で。
➈腫瘍の位置とどの動脈から腫瘍へ血流が流れ込んでいるのか見極める。
➉確認後、抗がん剤と油性造影剤の混合液を注入。
腫瘍の隅々まで薬を行き渡らせる。
⑪十分に薬が入ったことを確認し、塞栓物質の注入。
血流を遮断します。
⑫治療後、再度造影検査。
腫瘍への血流がないことを確認します。
⑬カテーテルの抜去。
⑭止血
・適応
先にも述べましたが、この治療法の適応は肝細胞癌です。
ただ、腫瘍への栄養血流を止めることで治療を可能としているので、元々腫瘍への血流が豊富であるという前提が重要です。
なので、適応となる肝細胞癌は単なる肝細胞癌ではなく、
進行した、手術不能でかつ穿刺局所療法の対象とならない多血性肝細胞癌となるので、覚えるときは注意が必要です。
・TACEとTAEの違い
TACEはTAEとよく混合してしまうのですが、この二つは明確に違いがあります。
TACEの場合、癌へ油性造影剤と抗がん剤を注入したうえで肝動脈を塞栓するのに対して、TAEは肝動脈を塞栓するだけです。抗がん剤という化学的治療を同時に行っているのでTAEではなくTACEのCが含まれているのです。
もののついでなのでここで関連した用語をまとめたいと思います。
・肝動脈化学療法(TAI):抗癌剤の肝動注療法であり塞栓物質は使わない。
・肝動脈塞栓療法(TAE):固形塞栓物質を用いて動脈内を塞栓する方法。抗癌剤は使用しない。
・肝動脈化学塞栓療法(TACE):抗癌剤と固形塞栓物質を用いて行う化学塞栓療法。
それぞれ微妙な違いではありますが、全部違った治療法なのです。
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CTAPとは?
これは、上記の➅に該当する撮影です。
CTAPとは、血管造影を行いカテーテルを上腸間膜動脈に留置し、上腸間膜動脈から造影剤を注入し、造影剤が門脈から肝臓に流入する時間にあわせて撮影するCT検査です。
造影剤の注入開始からでいうと約20~30秒で撮影されます。
上腸間膜動脈から造影剤を注入することで、門脈からの血流だけを選択的に評価することが可能となるのが利点です。
それはどのような利点なのでしょうか。
多血性肝細胞癌は、肝動脈からほぼすべての血流を得ており、門脈を選択的に造影することで、この造影検査では肝細胞癌には造影剤がほとんど入らず、画像上では黒く(低吸収)で写ることになります。
このことを利用して、CT画像上で肝実質と腫瘍との鑑別が可能となり、腫瘍の有無とおおまかな性状を知ることができるのです。
上腸間膜動脈から先天的に肝動脈へ分岐血管がある場合は、腫瘍に造影剤が流入するため、白く写ることになる。
CTHAとは?
血管撮影を行いカテーテルを総肝動脈に留置し、総肝動脈から造影剤を注入し、行うCT検査です。
撮影は、注入開始後、約12秒で行います。早期相の撮影では、肝細胞癌は動脈血が豊富なため白く(高吸収)として写ります。
さらにその、15秒後(注入後60秒後)の撮影では、癌結節周囲がリング様に高吸収となるコロナサインが見られます。これが見られると肝細胞癌の診断となるのです。
この二つのCT検査を行い、確定診断を行ったうえでTACEへと移ることができます。
つまり、この二つのCT検査はTACEを行う上で欠かせない検査なのです。
そして、治療後のCT画像と比較することで、肝細胞癌内に抗がん剤と油性造影剤が行き渡っているかを判断することが出来ます。