MRI検査を行う上で考えずにいられない要因としてSARがあります。以前のような低磁場環境で検査を行う上では、そういうものがあるんだなと、さほど気にされる必要がないものでした。
ですが、最近のMRI装置は高磁場環境を作りだすハイテク装置です。(以前もハイテクといえますが、今はそれよりももっとです。)
そのため、SARという概念が無視できなくなってきているのです。今回はMRI検査時に気にしなくてはならないSARとは何かについてまとめてみたいと思います。
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MRIで体温が上がる理由とは?
MRI検査で体温が上がる原因は電子レンジと同様です。電子レンジは、水分を含んだ食べ物に電磁波を当てて、水分子を振動・回転させることで温めています。
同様に、MRIも人体に電磁波を間欠的(パルス的)に照射し、人体内の水素分子に働きをかけて撮影を行っているため水素を含む水分子が振動・回転し体温を上昇させる原因となり得るのです。
ただ、当然ですが、MRI検査は体温を上昇させるための装置ではなく、体内の画像を撮影するのが目的の装置です。よって、電子レンジほど体内の水分に働きをかけることはないため、人が電子レンジ内に入るよりは、ずっと安心であるといえます。
体温上昇による重大な事故に繋がったという話は聞きにくいですが、それでも、身体がポカポカと温まる感覚は、勘違いではないかもしれません。
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SARとは?
人体に電磁波を当てると、「刺激作用」や「熱作用」が起こります。「刺激作用」とは、人体に電流が生じることにより、神経や筋の活動に影響を与える作用であり、「熱作用」とは、人体に電磁波のエネルギーが吸収されることにより、体温が上昇する作用のことです。
この熱作用が電子レンジと同様な効果なのですが、熱作用を評価する量として、比吸収率(SAR:Specific Absorption Rate)が使用されています。
なので、今回の場合でのSARとは、人体がMRI装置という磁場環境下で電磁波を当てらえることによって、単位体重あたり、かつ単位時間に吸収されるエネルギー量をいいます。
その単位は、
SAR=J/kg・s=W/kg
です。
SARの大きさは身体の部位や領域によって違っており、全身で平均した「全身平均SAR」と局所の10gの組織で平均した「局所SAR」が使われています。そして、それぞれに人体を安全に守るために制限が定められています。
・通常モード(3T以下)
定義:いかなる出力も患者に生理学ストレスを引き起こす限界値を超えない。
・第一次水準管理操作モード (3Tを超え4T以下)
定義:いくつかの出力が患者に医療管理を必要とする生理学的ストレスを引き起こす可能性のある値に達する。
・第二次水準操作管理モード(4Tを超える)
いくつかの出力が患者に重大なリスクを与える可能性のある値に達する。
https://kikakurui.com/z4/Z4951-2012-01.html
SARに影響する因子とは?
では、MRI検査においてSARの値は、何に影響されるのでしょうか。その答えとして、SARの関係を以下に示します。
SAR∝σr²B₀²α²
σ;電気伝導度 r;被験者半径 B₀;静磁場強度 α;フリップアングル
となり、電気伝導度と被験者の半径や密度は個人により決まるので変更できません。そうなると、装置や撮影法によって変化する、静磁場強度とフリップアングルが大きく関わることになります。
最近、多い3T以上の高磁場MRI装置では、1.5Tの装置時に比べてSARは4倍になり、かつFastSE法などの180°パルスを連続的に当てる撮影法は厳しくなる時があることになります。3Tが普及し始めた当初はよくこのSARが問題にもなってました。