放射線治療装置(リニアック)では、X線と電子線を同一装置から照射するために、フィルタが二つ存在しています。
それが、フラットニングフィルタとスキャタリングフォイルです。
今回は、少し短めになりますが、この二つをまとめたいと思います。
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フラットニングフィルタとは?
フラットニングフィルタとは、別名ではビーム平坦用フィルタ、イコライザと呼ばれるもので、X線照射時に使用されます。
その役割は、X線強度の平坦化です。
どういうことか?
放射線装置では、例外なくX線を照射するためには、高エネルギーの電子をターゲットと呼ばれる金属に衝突させる必要があります。
衝突をさせる金属の種類や方法は、装置によって異なることがありますが、それがX線を発生させるうえで大原則といえるのです。
では、治療装置ではどうやって電子をターゲットに衝突させているのでしょうか。
それは、水平方向(横方向)に進んでいる電子を偏向マグネットで垂直方向(下方向)に向きを変え、その先にターゲットを設置することで衝突させています。
レントゲン画像を撮影する装置は、水平方向に飛ばした電子を向きを変えずにターゲットに衝突させているので、治療装置では少し異なった方式が使用されているといえるでしょう。
このように透過形の金属ターゲットから発生するX線は前方に集束されるように発生するのが特徴です。
つまり、X線束の中央ほど強度が強く、端にいくほど弱いX線が発生しているのです。
この発生したままのX線は、放射線治療に使用することはできません。というより適していません。
なぜなら、放射線治療に求められるX線は強度が均一であり、照射範囲に均等の線量を与えることが望ましいからです。
腫瘍に均等な線量を計画的に照射することが放射線治療には求められています。
では、中央ほど強度の高いX線をどうやって強度が均一のX線に変化させるのか。
その役割を果たすのが、フラットニングフィルタです。
フラットニングフィルタは、中央が厚く円錐形をしており、発生したX線を被写体に照射する前に、通過させるようにするのです。
すると、中央ほど多くのX線を吸収されて通過することになり、結果的に強度が平坦なX線が仕上げることができるのです。
このフラットニングフィルタには、銅(Cu)や鉛(Pb)が使用され、中央部分の厚さは5cmほどです。
ですので、治療を行う上でX線を吸収しすぎることもありません。(という設計がされている)
ただ、X線による放射線治療には欠かせないものといえます。
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スキャタリングフォイルとは?
スキャタリングフォイルとは、別名ではビーム拡散用フィルタ、スキャラタとも呼ばれるものです。
その役割は、電子線の散乱・拡散です。
どういうことか。もっと詳しくまとめていきたいと思います。
放射線治療で使用される電子線は、電子銃から放出された電子を加速管や偏向マグネット加速、方向を変更させることで取り出したものです。(なので、X線の時のようにターゲットと衝突することはありません。)
ただ、加速管などによって、加速されエネルギーを高めていった電子線の段階では、治療に使用することができません。
なぜなら、加速管から取り出された電子線は非常に細く、そのままではある程度の大きさをもった腫瘍の照射には向かないためです。
また、X線同様に細い電子線の中にも強度のバラつきがあり、中心ほど高い性質を持っています。
そのため、電子線による放射線治療を行うためには、太い電子線かつ強度が平坦なものにする必要があるのです。
そこで、使用されるのがスキャタリングフォイルです。
加速管から取り出された電子線をスキャタリングフォイルを通過させることで、散乱・拡散させることで太い電子線(ある程度広い領域を持った電子線)を作りだします。
さらに、照射内の線量分布を平坦化させ均等な電子線による治療を行うことが出来るようになるのです。
スキャタリングフォイルの材質は、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉛(Pb)などであり、使用される厚さも含め、照射するエネルギーによって使用されるものは異なります。
・エネルギー10MeV以下で直径10cmまでの小照射野では・・・
Pbのような高原子番号の金属箔が用いられる。
・エネルギー15MeV以上で直径15cm以上の大照射野では・・・
1枚目は高原子番号の金属箔でエネルギー損失を最小限にし、その下の2枚目の散乱箔は低原子番号の金属箔が使用される。(二重散乱低システム)
ただ、スキャタリングフォイルを用いることにより、電子線のエネルギー分布はわずかに低エネルギー側に分散し、同時に僅かにX線(電子線がスキャタリングフォイルと衝突することによって制動放射線が発生する)が混入することになります。
モニタ線量計とは?
二つのフィルタから各々取り出されたX線・電子線を制御するモニタ線量計についても少しだけ。。。
モニタ線量計は、透過型電離箱であり、照射線量の制御を行っています。
具体的には、治療予定線量を設定しておき、その線量に達すると照射を停止させることが主です。
そのため、線量計が故障した場合には、照射線量の管理に不具合が起こ得るため、安全のため2つの線量計が配置された2重機構が一般的です。
よって、なんらかの原因で1つのモニタ線量計が正常に動作しない場合には、もう1つのモニタ線量計がバックアップとして働くので安心です。
またモニタ線量計の役割には、取り出されたX線・電子線の平坦度のずれを管理することも含まれます。
照射野の平坦度調整の後、平坦度メータを0に合わせることで、調整時からの平坦度のずれを管理することができるのです。