理系の分野は、単位が少し違うだけで、呼び名が変わります。その一つに含まれるのが、LETです。
では、LETとはなんなのか?どういった作用に使われるのか?まとめてみたいと思います。
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LETとは?
LETとは、Linear enetgy transfer:線エネルギー付与の略です。
これは、単位距離を通過するときにどれだけのエネルギーを与えるかを表します。放射線に関わる単位の中には、他に単位時間あたりの線量を表す線量率がありますが、まったく異なるものです。線量率の単位はGy/minなど、秒を表す(s)や分を表す(min)などが分母に使用されていました。
が、LETでは、距離に対するエネルギー付与なので、距離を表す単位が必要になり、cmやmなどが用いられます。そして、LETの単位で良く使用されるのは【KeV/μm】と、mの1000分の1の単位となります。
ここで、線量率ともう一つ異なる点として、分子の単位にも注目してみましょう。線量率では、吸収線量を表すGy(グレイ)が使用されていましたが、LETの場合はKeVが使用されています。
これは、なぜか?
LETは元々、荷電粒子(電子や陽子など電気を帯びている粒子)に適応される量であり、非荷電粒子(X線やγ線などの光子)には定義上使用できないためなのです。
ですが、光子や中性子線についても、相互作用後に放出される2次荷電粒子に着目して使用されるのが、実際のところです。LETの大きさは、単位距離あたりに物質に与えるエネルギーが大きいほど大きいことになります。
では、どういったものがLETが大きく、そして小さいのでしょうか?これには、粒子が大きな電気を帯びているのかどうかが大きく関わることになります。
例えば、光子と呼ばれるX線やγ線などは、粒子に電気を帯びていません。なので、低LET放射線にあたります。
では、電子線や陽子線はどうか?電子とは、マイナスの電気を帯びた粒子で、陽子は、プラスの電気を帯びた粒子になります。この電気の量を個数で表すと1個といったところになります。
みなさんは、モノが1個あっても沢山あるとか、思わないですよね。それと同じで電気の数が1個あっても電気量的には大したことはありません。
なので、電子線や陽子線は、粒子に電気は帯びていますが、電気量が少ないということで、低LET放射線と位置付けられます。
では、どういったものが高LET放射線と呼ばれるのでしょうか?それは、α線や炭素線といった、重粒子線と呼ばれるものになります。
α線はヘリウムの原子核が放射線になったものです。ヘリウムはプラスの電気を4つ帯びているため、単純に陽子線の4倍もの電気を帯びていることになります。
こうなると、単位距離に与えるエネルギーも陽子の4倍となり、高LET放射線と呼ばれるようになってくるのです。
代表的な高LET放射線が重粒子線なのですが、実は、非荷電粒子の中にも高LET放射線と呼ばれるものがあります。
それが、速中性子線と呼ばれる中性子線の一種です。
そもそも、中性子線は水素原子核(陽子)とぶつかりエネルギーを陽子に与えて、その陽子が物質を電離させるという反応をおこします。
そのエネルギーによって名前を分類することになるのですが、その中でも速中性子線は数MeV程度のエネルギーをもっています。
その程度以下のエネルギーの陽子線は非常に高いエネルギーを持っており高LET放射線に分類されることになり、生体組織に局所的に大きな電離を生じることになります。
結果的に大きな電離を起こし、生体細胞の破壊を起こすために、速中性子線は高LET放射線になるのです。
LETの大きさは生物学的効果の面から見ても重要です。
LETが大きくなるほど、物質に与えられるエネルギーが大きくなるとなりますが、これはつまり、必然的に人の細胞や組織に与える損傷も大きくなることに繋がるためです。
このことを生物学的効果比(RBE:relative biological effectiveness)が大きくなると表し、LETが大きくなるほど、RBEも大きくなると考えるのがわかりやすいと思われます。
が、これには、注意が必要です。なぜならDNAの構造が関わってくると、単純にそうとは、言いきれないことがあるからです。
どういうことか?放射線の生物学的影響はDNAの損傷として説明されます。そこで、DNAの構造を簡単に説明すると、2重らせん構造であり、その鎖間の距離(単鎖間距離)は2nm(ナノメートル)となります。
従って、放射線による損傷を考える場合、平均2nmごとにエネルギーを付与するLET(約100KeV/μm)が最も効率よくDNA損傷を引き起こすことができることになるのです。
これは、逆にLETを高すぎる(約100KeV/μm以上)では、2nmよりも短い間隔でエネルギー付与を起こしてしまい、効率が悪くなってしまうことにも繋がり、結果的にRBEも低下することになります。
約100KeV/μm以上におけるRBEの低下を「overkill効果」と言いますが、実際に過剰に細胞に損傷を与えているわけではなく、標的としてのDNAをヒットしていない無駄なエネルギー付与が多くなっていることを意味しています。
※RBEの定義
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低LETと高LET放射線の影響の違いとは?
基本的には、高LET放射線は自分だけでも生物学的効果が大きいため、他の修飾効果が小さくなります。一方で、低LET放射線は、自分だけでは生物学的効果が小さいため、修飾効果が大きくなり、効果の増強が来たいされます。
低LET放射線 | 高LET放射線 | 高LET放射線の特徴など | |
---|---|---|---|
種類 | X線、γ線 電子線、陽子線 |
重粒子線(陽子線を除く) ex.α線など |
|
RBE(生物学的効果比) | 小さい | 大きい | 分割照射するとさらに、RBEが大きくなる |
OER(酸素増感比) | 大きい | 小さい | OERは1に近い |
細胞周期依存性 | 大きい | 小さい | |
線量率効果 | 大きい | 小さい | |
放射線増感剤の効果 | 大きい | 小さい | ラジカルの発生が少ないため |
防護剤の効果 | 大きい | 小さい | ラジカルの発生が少ないため |
温度効果 | 大きい | 小さい | ラジカルの発生が少ないため |
作用 | 間接作用が主 | 直接作用が主 | 直接DNAに作用する |
回復 | 大きい | 小さい | SLDおよびPLD回復ともに小さい 分割照射の効果が少ない |
LET・RBE・OERの関係