【放射線治療】時間的線量配分による効果の違いとは?

放射線治療の効果を最大限に発揮させるためには、様々な工夫がされており、その一つが時間的な概念です。時間的と言われても、あまりピーンと来られる方は少ないと思われますが、総線量、線量率、分割照射、治療期間がこれにあたります。

 

それぞれがどのような工夫にあたるのかまとめてみたいと思います。と、大げさに言いましたが、それぞれが独立しているわけではなく、繋がって覚えるほうが楽です。

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総線量とは?

総線量とは、照射された線量の合計のことです。

 

ただ、がんの種類によって、照射される線量は異なり、線量によって正常な細胞や組織にでる影響も異なるのでとても重要な指標となります。

 

治療線量(Gy) がんの種類
20~30 セミノーマ
急性リンパ性白血病
30~45 ウィルムス腫瘍
神経芽細胞腫
悪性リンパ腫
肺小細胞がん(小病巣)
50~65 肺小細胞がん(進行病巣)
扁平上皮癌(頭頸部、早期肺、膣)
リンパ性転移(1cm以下)
髄芽細胞腫
喉頭がん(1cm以下)
70~75 口腔がん(扁平上皮癌、2~4㎝)
鼻咽腔がん(扁平上皮癌)
膀胱がん(移行上皮癌)
子宮頸がん(腺癌)
リンパ性転移(3㎝以上)
肺がん(扁平上皮・腺癌、3㎝以上)
食道がん
80以上 頭頸部がん(扁平上皮癌、4㎝以上)
リンパ性転移(5㎝以上)
神経膠芽腫
軟部組織肉腫、骨肉腫
悪性黒色腫

 

例えば、正常組織の晩発障害と耐容線量の表を下に挙げたいと思います。

 

器官 晩発性障害 最小耐容線量(Gy)(TD5/5) 最大耐容線量(Gy) 照射範囲
皮膚 皮膚炎、線維化 55 70 100cm²
水晶体 白内障 12 全体、一部
中耳炎
メニエール症状
50
60
70 全体
甲状腺 機能低下 45 150 全体
脊髄 梗塞、壊死 45 55 10cm
食道 食道炎、潰瘍 60 75 75cm²
放射線肺炎 30 35 100cm²
乳腺 委縮、壊死 >50 >100 全体
潰瘍、穿孔、出血 45 55 100cm²
直腸 潰瘍、狭窄 60 80 100cm²
精巣 不妊 全体
卵巣 不妊 2~3 6.25~12 全体
子宮 壊死、穿孔 >100 >200 全体
抹消神経 神経炎 60 100 10cm

 

※耐容線量(たいようせんりょう)とは・・・
正常な組織に対して放射線照射を行った場合、組織が耐えられる放射線の最大量のこと。

最小耐容線量:5年以内に2~5%の頻度で障害が起こる線量(TD5/5)

最大耐容線量:5年以内に25~50%の頻度で障害が起こる線量(TD50/5)

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線量率とは?

線量率とは、単位時間当たりの線量のことです。放射線によって受ける影響は、総線量が同じであっても、放射線の種類や線量率によって違ってきます。

 

短時間で多くの線量を照射する高線量率に比べて、長時間かけて総線量を同じだけ照射した場合のほうが影響は少なくなると言われています。(線量率効果)

 

高線量率で短時間照射すると、放射線によって傷を受けた正常組織の回復が起こらず、放射線の影響が大きくなってしまうのです。

 

また、線量率が極端に低いと正常組織は放射線から受けた傷を修復しやすいので、影響が少なくて済むことになります。

分割照射とは?

線量率の特性を活かし、治療を行う方法が分割照射になります。分割照射とは、照射と照射の間に時間間隔をあけることです。

 

レントゲンやCT検査のような検査に使用される線量に比べて、とても多くの線量を必要とするのが放射線治療です。

 

ただ、治療に必要な線量を一度に照射してしまうと、正常な部分まで大きな影響を受けることになってしまいます。(言葉を置き換えると、高線量率で短時間照射を行った場合と同じ)

 

それでは、病気は治っても、その代償として放射線による障害を抱えることになってしまい、治療後の生活の質も低下してしまいます。そこで、放射線治療では、正常組織への障害を減らすため、分割照射を行うのです。

 

正常組織と腫瘍組織には、放射線による感受性が僅かですが異なり、かつ、正常組織は放射線によって受けた傷を修復できますが、腫瘍組織はできないという回復力にも違いがあります。

 

正常組織と腫瘍組織の違いを最大限発揮させるのが分割照射です。

 

どういことか。分割照射では、治療に必要な多くの線量を何回にも分けます。それは、10や20回といった数にもなるほどです。

 

確かに、その分だけ治療期間は長期にわたることになりますが、その代わり、正常組織は放射線によって受けた傷を治すだけの時間を得ることになります。

 

それに比べ、腫瘍組織は放射線による傷を治すことができないので、このふたつの組織間では、一方は傷を治し元に戻ってからまた、放射線に対する準備を行うのに対し、もう一方では、放射線による傷を蓄積し続けることになるのです。

 

それが、結果的に腫瘍組織をやっつけて、正常組織への影響を最小限にするという目的を果たすことになります。

 

分割照射の回数を増やすことは、さらなる追加効果があります。それは、晩発障害を減らすことができることです。

 

分割照射の回数を減らすということは、決まっている総線量に対して、1回に照射する線量を減らすことになります。

 

つまり、低線量率による照射になり、放射線による影響が出にくくなることに繋がるということになります。

 

 

しかし、ここで注意が必要です。

 

分割回数を多くしすぎてしまうと、放射線の影響が少なくなるため、それは、腫瘍組織への影響も減らすことになってしまうからです。結果、治療効果を得ることができなくなってしまいます。

 

1回の照射線量を少なくしすぎるということは得たい結果を得ることができないということも覚える必要がります。

 

1回2Gyずつというのが、多い照射方法です。

 

最後に分割照射にも2種類あるので、その二つを紹介したいと思います。

 

・単純分割照射法

2Gy前後の一回線量を1日1回、週4~6回照射、1週間で10Gy前後の照射を行う。放射線治療における基本的な分割法で、なかでも1回2Gy、週5回、週間線量10Gyは標準的。

 

・多分割照射法

1日複数回照射する方法で、1回線量を減少させず に1日に2~3回照射して総線量を少なく、短期間で 照射を終了する加速過分割照射や、1回線量を1~1.3Gyに減少させて1日2回照射することで,総治療期間は変えず に総線量を増加させる過分割照射の2種類がある。

複数回照射の間隔は5~6時 間以上必要とされる。

  単純分割照射法 多分割照射法
1回の照射数 1回(5回/週) 2回(4~6時間あける)
1回線量 2Gy 1.1~1.2Gy程度
全治療期間 6週間程度 6週間程度
総線量 60Gy程度 標準より10~20%多い