放射線治療では、X線・γ線、電子線、陽子線など様々な放射線が利用されます。
ただ、それぞれ放射線治療の観点ではどのような特性があるのか理解するためにも今回まとめてみたいと思います。
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X線・γ線
X線やγ線は、検査で使用されることも多いので混乱されるかもしれませんが、治療に使用されるX線・γ線は検査のものと大きく異なる点があります。
それはなにか。放射線のエネルギーです。
放射線治療では、検査と違い、生体の細胞や組織に損傷を与える必要あります。となると、検査に使用されるような人体に影響の少ない低エネルギーX線・γ線ではなく、その1000倍にあたる、高エネルギーのX線・γ線が使用する必要があります。
よって、放射線治療で使用されるX線・γ線のエネルギーは1MV(メガボルト)以上を自ずと指すことになります。X線・γ線の特徴は、深部量百分率(PDD)が大きく、深部の腫瘍に対して十分な線量を与えることが出来ることです。
X線やγ線は電子線や陽子線と比べ、透過力の強い放射線のためです。また、X線・γ線は高エネルギーになるほど、散乱線の方向が前方に向かい、側方散乱が少なくなる特徴を持ちます。線束外に失われる線量が少なく(目的外の領域に放射線が散らばることがない)、等線量曲線の前面が平坦になるという利点があります。
これは、高エネルギーのX線・γ線は、直線性が良く、照射内に均等な線量を照射できると言う意味を指します。通常の検査時には、照射野の端は線量が少なくなる傾向がありますが、高エネルギーを使用する治療では、腫瘍の大きさギリギリの照射野で照射しても腫瘍の端まで均等に線量を与えることが出来るのです。
また、高エネルギーのX線・γ線はbuild-up効果があり、皮膚障害の軽減が図れるとも言われています。
※ちなみに、build-up(ビルドアップ)効果とは、光子線束が体内に入射したときに、1次線より2次散乱線の増加が多く徐々に線量を増すことです。表面から徐々に線量を増し、最大線量となるまでの領域をビルドアップ領域と言います。
ビルドアップが起こる原因は、表面(人でいう皮膚面など)から発生した2次電子がある長さを走りながら電離を起こすためです。このビルドアップ効果のため、吸収線量が最大となる深さ(最大深)は基準深に相当し、4~10MVでは加速電圧の1/4cmになります。
高エネルギーのX線・γ線では、検査時に使用する低エネルギー時にはない防護上の注意があります。それは、10MV以上のエネルギーでは、光核反応(高エネルギーの光子が原子核に照射されると、中性子や陽子、α線などが放出される現象)による中性子の防護が必要になることです。
もっと、専門的な話をすると、高エネルギー光子のエネルギー吸収の大部分はコンプトン効果によって起こります。
また、コンプトン効果が起こるエネルギー範囲のX線・γ線に対して、ほとんど全ての物質の質量減弱係数がほぼ等しいため、骨組織と軟部組織の吸収差が少なくなります。
これは、低エネルギー時には影響を受ける骨でも影響を受けることがなく、線量分布にも変化が表れにくいことや、骨自体の放射線壊死など障害の減少に繋がります。
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電子線
電子線もX線・γ線と同様、放射線治療に使用されるのは、高エネルギーと呼ばれるものです。
ただ、X線・γ線はエネルギーが高くなるにつれ深部まで到達できるという性質を持つ反面、腫瘍より浅い領域や深い領域にまで吸収されるという欠点があります。
それに対して、電子線では、エネルギーにより到達できる一定の距離(飛程)が決まっており、それ以上の深部領域には到達することができない特徴があります。そのため、治療効果が得られる範囲や深さが電子線のエネルギーと深く関わってきます。
それを表したのが、下の数値になります。
・実用飛程(別称:最大飛程)ー約MeV/2cm
・80%線量の深さ(有効治療可能域)ー約MeV/3cm
これは、腫瘍の深さに対応するエネルギーの電子を使用し治療を行えば、腫瘍より深い領域にある正常な細胞や組織への損傷がX線・γ線に比べて、少ないことを意味します。「だったら、放射線治療はX線・γ線より電子線のほうが良いのでは」と思うかもしれませんが、そうもいきません。
電子線は、ある一定の深さまで到達すると、急激な線量減少があり、深部領域の腫瘍には届きにくいためです。
急激な線量減少は、腫瘍より深部領域の正常細胞を守る利点がある一方で、限られた深さまでしか届かないという欠点にもなっていることになります。
なので、電子線でのは治療は、表在性の腫瘍や術中照射など不要な領域を進む必要がない照射時に使用されるのが一般的です。
電子線の照射には、他にも制限というか条件があります。
➀側方散乱が多い
ただ、電子線はX線やγ線に比べ、遮蔽が容易であり、周囲の正常組織が簡単に防護できます。
➁照射には照射筒が必要
照射野は照射筒の大きさになり、表面位置での照射になります。
あまり大きな照射野が取れず、照射野をつないで照射した場合は、つなぎ目に高線量域ができるので、すこし離して治療を行う必要がある。
➂スキャッタリングフォイルの使用
電子線は加速管から出た直後は非常に細く、そのままでは大きさのある腫瘍の照射に使用することが出来ない。
そこで、スキャッタリングフォイルを使用し、電子線を散乱・拡散させて照射野内の線量分布を平坦化させる必要がる。
➃肺や骨の影響を受けやすい
骨や空気など軟部組織と密度の違う物質を通る照射では、線量分布が大きく変化する。
※X線と電子線の使い分け
・約4cm深さまでの浅在性腫瘍・・・約4~12MeVの電子線
・約2~10cm深さの頭頸部腫瘍など・・・3~6MVのX線
(頭頚部は骨が多く、電子線は不向き)
・体幹部の深部腫瘍・・・6~20MVのX線
陽子線
陽子線はX線・γ線、電子線に比べ、最も画期的な治療放射線といえると思われます。
それは、なぜか?
X線・γ線は腫瘍より浅い領域も深い領域もほぼ均等に線量を与える性質を持っていました。また、電子線は腫瘍より深い領域の正常な組織は守られるが、深い腫瘍に照射できないことが出来ないという欠点がありました。
それに比べ、陽子線は狙う腫瘍の距離がわかれば、それに応じたエネルギーで照射することで、腫瘍にだけに急激に吸収される性質を持つます。
つまり、腫瘍より浅い領域、深い領域にある正常な組織を守りつつ、腫瘍にだけ高線量の放射線を照射し治療を行うことができるのです。
これは、陽子線が以下のような性質のためです。
陽子線はエネルギーによって決まる一定の深さでブラッグピークと呼ばれる線量が急に大きくなる領域を持ちます。
ブラッグピーク以前では、全く吸収される線量がないとは言えませんが、X線・γ線、電子線よりも少なく、さらに、ブラッグピーク以降の深部領域では、線量は実質的にゼロといえるほど少なくなります。
また、側方散乱が少ないので、X線・γ線同様に腫瘍の大きさギリギリまで照射野を設定することが可能です。なので、放射線治療の業界では、陽子線は喉から手が出るほどほしい技術といえることになるのです。
ただ、陽子線はまだ実用的でない、行っている施設がとても少ないのが実情です。
それは、陽子線の照射には、とても大きなサイクロトロンと呼ばれる装置が必要であり、設置費、維持費、運用費、そして大きな土地が必要となるためです。
また、今では陽子線と同様の性質を持ち、治療効果も高い重粒子線による治療も注目されています。今後の技術の進歩に期待といったところでしょう。