90°パルスだけを使うパルス系列には、飽和回復法と部分飽和法があります。
今回は、飽和の概念と部分飽和、飽和回復についてまとめてみたいと思います。
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飽和とは?
飽和にはその縦磁化がどの程度回復しているのか段階によって、呼び方が少しずつ変化していきます。
順を追って説明すると・・・
90°パルスを印加した後の縦磁化が倒れ、横磁化が出来た直後の状態を飽和されているといいます。
縦磁化成分が0の状態を言うのです。
そのため、飽和されている状態で、2回目の90°パルスを印加しても、全く信号を得ることはできません。
この状態から、磁化成分のT1回復が起こり、縦磁化かが少し回復した状態を部分的に飽和されている。
また、T1回復が完全に行われ縦磁化が回復しきった状態(プラトーと呼ばれる状態)を飽和されていない、または完全に磁化されていると呼びます。
ちなみに、これらの呼び方は、90°パルスを使われたときだけに限りません。
例えば、90°未満のフリップ角を用いて、縦磁化が少しだけ倒された場合にも、状態的には、90°パルスをかけて、少しだけT1回復が起こり、縦磁化が多少なりとも回復した状態と変らないため、この場合も部分的に飽和されている呼ぶことになります。
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部分飽和パルスシーケンスとは?
部分飽和パルスシーケンスとは、短いTR間隔にて90°パルスを何度にも渡り繰り返す印加するシーケンスのことです。
どういうことか。
90°パルスを送り、短時間のTR(90°パルスと90°パルスの間の時間)の後に次の90°パルスを送るということを繰り返すと、信号はFID(自由誘導減衰)に応じて得られることになります。
具体的に、T1回復曲線から見てみましょう。
t=0のとき、90°パルスを印加し縦磁化かを横に倒します。(横磁化を発生させる)
90°パルスをかけ終わった直後から縦磁化は回復を始めることになります。
そして、t=TRのとき、縦磁化は回復しているが、完全ではないままに、2回目の90°パルスを印加します。
すると、縦磁化はまた横磁化になりますが、倒れる前の縦磁化は、最初t=0のときの縦磁化よりも小さいです。
発生した横磁化は、90°パルスがかけ終わった直後からまた、縦磁化の回復を始めます。
そして、またTR経ったら次にまた、3回目の90°パルスにより、縦磁化を横磁化に倒します。
この時も、2回目同様に縦磁化は最大にまで回復しない状態ですが、2回目の90°パルスをかける前の縦の磁化と大きさは同じになります。
その後も。90°パルスをが送られた後の回復時間はTRに等しいまま、t=0の時の最初の90°パルスを印加した直後のFIDを最大に、2回目以降のFIDはいずれも1回目のFIDよりは小さい同じ値を示すことなります。
ここまでの流れを磁化成分だけに注目すると以下のような流れになります。
➀縦磁化が最大
➁t=0、90°パルス印加の直後、縦磁化は0になる。
➂縦磁化の回復の開始
➃t=TR、縦磁化は少しだけ回復したが、最大ではない。
➄2回目の90°パルスを印加。
➅縦磁化は0になり、横磁化の発生。
➆またTR時間、縦磁化を回復させる。(縦磁化の大きさは2回目の90°パルスを印加する前と同じ大きさ)
➇90°パルスを印加。
といった、何度にもわたり90°パルスをかけ続けるシーケンスを部分飽和回復シーケンスと言います。
なぜ部分飽和なのかというと、2回目以降に得られるFIDが1回目に得られるFIDよりも小さいものだからです。
つまり、2回目以降の縦磁化は回復しきっていない(プラトーにまでたどり着いていない)ため、部分飽和となるのです。
ただ、ここで注意が必要です。
縦磁化が回復しきっていないという表現を用いると、横磁化が残っているように感じられますが、横磁化は残っていません。
T1はT2の数倍大きい値なので、TR時間が経過した後は、横磁化は完全に減衰し0となっているのです。
結果、部分飽和で得られる画像は、TEが極めて短い、90°パルスの直後に信号が測定されるので、T1強調画像になります。
飽和回復パルスシーケンスとは?
部分飽和パルスシーケンスでは、2回目以降の縦磁化は完全に回復しないまま、次の90°パルスが印加さえていました。
つまり、縦磁化が回復しきるにはTRが短ったのです。
一方、飽和回復は2回目の90°パルスを用いる前に縦磁化を完全に回復しようとするものです。
このため、2回目の90°パルスを印加する前に長時間待つ必要があります。
結果、TRが部分飽和に比べて長くなります。
あとは、先ほどと一緒です。
90°パルスを印加し、信号を測定する。
縦磁化が完全に回復するまで、待って再度90°パルスを印加し、信号を得る。
の繰り返しになります。
得られるFID信号は90°パルスを印加する前に縦磁化が完全に回復していることから、毎回最大の信号強度となります。
よって、飽和回復では、TRは長く、TEは極めて短いというシーケンスを用いているということになります。
結果、得られる画像はプロトン密度強調画像(PDWI)となります。
とここまで進めてきたが・・・
部分飽和パルスシーケンスや飽和回復パルスシーケンスは、使われていません。
なぜ使われていないのか。
これらのパルスシーケンスは、パルスの後に十分に時間を取ることなくFIDを測定することが非常に困難だからです。
電気的理由により、FIDの測定のためには相当な時間をかけなければなりません。
しかも、90°パルスしか印加しないため、外部磁場の不均一性にも大きな影響を受けることになるのです。
なので、使われていません。
ですが、他のシーケンスを覚えるために必要な概念ではあります。
知識程度に覚えておいても損はないでしょう。