普段からレントゲンやX線CTを操作する放射線技師であれば、聞いたことがあるであろう『Dual Energy Imaging』や『デュアルエナジー』撮影ですが、原理は昔からあっても、浸透し検査に使用され始めたのは比較的最近の話です。
なので、私自身、学校で教わった覚えもありませんし、現学生でも教わることはないのではないでしょうか。
それなのに、就職したら当たり前のように使われているし、聞くと「なんで知らないの?」といった感じの対応をされるという、困りようだ。
そこで、今回は少しだけデュアルエナジーについてまとめてみたいと思います。
イメージだけでも理解していただけたら幸いです。
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従来CT撮影の限界
CT撮影は被写体を輪切りにして、3次元で体内の情報を得ることが出来る優れた医療機器ですが、その評価には限界があるのです。
どんな限界かというと。
色々な組織が組み合わさって成り立っている人体に対して、連続X線を使用しているために、本来、X線実行エネルギー毎に決まっている物質固有の値である質量減弱係数を正確に計算できないことです。
そして、そのことが原因で、CT値の乱れやアーチファクトが発生することに繋がってしまうところにあります。
どういうことか?
X線を使用した検査全体に言えることですが、CT撮影では連続X線、つまり、様々なエネルギーを含んだX線を人体に照射して撮影しています。
そのため、ある臓器では50kV程度のX線が情報を収集してCT値を計算していれば、ある物質にいたっては、70kV程度のX線が情報を収集してCT値を計算し画像化しているのです。
これは、同じ物質を撮影しても同様です。
X線のエネルギーが異なれば、質量減弱係数は異なり、同じ物質であるのに関わらずCT値が異なる値となって表現されることにもなるのです。
さらに、CT値とは【質量減弱係数】×【密度】によって計算されるため、異なる物資で質量減弱係数が異なる値であっても、密度によっては同じCT値を示し、画像上では区別ができなくなってしまいます。
などなど、一見優れた検査として有名なCTですが、体内の組織・臓器、病気の質までは評価することは苦手だと言えてしまうのです。
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デュアルエナジーとは?
これを解決する方法として、使用されるのがデュアルエナジー撮影です。
デュアルエナジー撮影では、異なる管電圧(主に高エネルギーと低エネルギー)を使用して撮影を行います。
そうすることで、例え、ある管電圧で同じCT値を示した物質であっても、異なる管電圧下で撮影したものでは、異なるCT値で画像されることになるので、別々の物質であると認識することができるのです。
もっと詳しく・・・
まとめてみましょう。
どうやって、異なる管電圧のX線を使用しているのかを。
例えば、一種類の管電圧で撮影した場合、基本的には得られる質量減弱係数値は一つだけです。
ですが、この場合、撮影に使用したX線エネルギーに対して、同一の質量減弱係数を持つ物質が合った場合や、質量減弱係数が異なっても密度の差によって、同じCT値として計算されてしまった場合、画像上では判別することができません。
これでは、もし臓器内に病気が隠れていたとしても画像上では見つけることが不可能です。
ですが、異なる管電圧を使った時のことを考えてみましょう。
上では、たまたま、緑とオレンジの曲線が交わるところでデータを収集してしまいましたが、それよりも低いエネルギーのX線を使用し、撮影すれば異なる質量減弱係数のデータを得られることになります。
このように、低エネルギーと高エネルギーのX線から物質固有の質量減弱係数を求めることができ、その変化率から、どんな物質なのかという同定までできるようになるのです。
ただ、これには注意点があります。
それは、質量減弱係数カーブが類似している物質が2種類以上ある場合には、その同定はできないことです。
どうやって異なる管電圧で撮影するの?
これには、大きく分けて3種類あります。
➀X線管を2回転させて同じ部位を1回転ごとに異なるエネルギーで撮影する。(2回転方式)
欠点は、動きに弱いことです。人間の臓器は心臓や血管の拍動、腸管の蠕動など常に動いています。にも関わらず、1回転目と2回転目の間にタイムラグがあるために、その動きによって影響を受けてしまい、アーチファクトが出現してしまうことがあります。
➁2つの設置角度の異なる管球から同時に撮影する。(CT装置に2つ管球がある)
2つの管球で撮影するため、動きには強く、撮影時間も短くなります。ただ、2つの管球から照射されるX線同士が干渉しないようにX線束を絞る必要ある。(FOVが狭くなる。)また、画像データを異なる機器で収集するため、Raw Dateが異なり、画像再構成後にしか画像処理ができません。
➂1つの管球で高速で管電圧を切替ながら撮影する。
同一の時間軸で撮影し、同一の位置精度を発揮できる撮影法。一回転する時間には限界があり、また、心臓など常に動いている臓器では、ヘリカル撮影では、同一の心位相時に同部位に異なる管電圧X線を照射できないため、ヘリカル撮影ができない。
どんなことが可能なのか?
今まで、CTでは、できなかった物質の質まで評価することが可能になるかもしれないデュアルエナジー撮影では様々なことが期待されています。
最後にその例を、挙げてみたいとおもいます。
・単色X線等価画像
通常のCT画像が多色X線を用いた情報に対して、計算による単色X線を用いた情報と等価の情報が得られます。
CT値の精度向上、ならびにビームハードニングによるアーチファクトというものが低減します。
・物質弁別画像
通常のCT画像の構成ボクセルには、物質が混合している状態でCT値という数値が算出され、画像再構成されている。
物質弁別画像では、ある物質に着目して、その物質が含まれているボクセルだけで画像を構成し、ボクセル内の濃度によってコントラストを作成します。
例えば、尿管結石では、シュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムなどが何が主成分でできたのかが重要です。
それが、CTを撮影するだけで弁別することができたり、カルシウムだけを表現した画像、尿酸だけ、造影剤だけなど、焦点を当ててそれだけの画像を構成することができます。