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造影剤の注射の腕は右と左どっちがいいの?

「注射をするなら、右の血管は細いから左からにしてほしい!!」

 

実際の臨床現場で言われることは多々あります。

 

こんな場合、先輩技師や医師たちは、「じゃあ、左から注射しましょう」と軽く答えていることもよくありますし、最初から左腕に造影剤の注射をしようとすることもあります。

 

でも、CT検査での造影剤注入は右腕からが基本であると学校で教わっているため、学生時の臨床実習や入職したてのころは、

「本当にいいの?」

と悩んだことがあります。

 

私以外にも、学校で教わったことと臨床現場での乖離に悩む方もいるのではないでしょうか。

 

そこで、今回は『造影剤の注射は右腕なのか?左腕なのか?』ということをまとめてみたいと思います。

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やっぱり基本は右腕!!

造影CT検査を行うなら、『基本は右腕』という覚え方は間違いありません!!

 

ただ、ここで注意すべきなのはあくまで『基本は』ということです。

 

つまり、基本通りでないこと、基本通りである必要がない場面があるということになります。

 

では、それはどういった場面なのでしょうか。

 

と、その前に、「そもそも、なぜ右から注射が基本なのか?」という疑問に答えたいと思います。

 

それは、『左から注射するより右から注射するほうがリスクが低いから!!』です。

 

なので、右から造影剤の注射をするのが基本となるのです。

 

では、左から注射した場合のリスクにはどういったことがあり、なぜダメだと言われるのでしょうか?

 

理由には、大きく分けて、2つあります。
一つずつ見ていきたいと思います。

・造影剤の逆流や鬱滞の可能性

左腕から注射した場合、造影剤は左鎖骨下静脈⇒左腕頭静脈⇒上大静脈⇒心臓⇒大動脈の順に流れることになります。

 

しかし、腕頭静脈から右心房に入るまで逆流防止弁がないことや心拍が静脈にも伝わることに加え、左腕頭静脈は右腕頭静脈に比べ長いために、内頸静脈に逆流する可能性が右に比べて高いと言われています。

 

また、右腕頭静脈は直線的に上から上大静脈に流入するのに対して、左腕頭上静脈は横側から上大静脈に流入するため、左腕頭静脈内では、鬱滞が起こる可能性が大きくなるのです。

 

造影剤を注射した場合に上記の二つの内容が起こると、結果的に、注入した造影剤の希釈化(濃度の減少)に繋がってしまい、造影剤を使ったことによる効果が少なくなってしまうのです。

 

このために、ダイナミック撮影や心臓CT検査など、造影効果が重要とされる検査の場合、診断にも影響を与える恐れがでてくるのです。

出典:www.bayer-diagnostics.jp-

なので、一般的には、上図のように◎、〇、△の順に注射する血管を選択するように教わるのです。

 

・アーチファクトによる影響

造影剤は、X線吸収が高いため、CT画像上では白く(CT値が高く)なって表現されることになります。

 

しかし、体内に留置された金属のように、高すぎるCT値は、アーチファクトとなって画像に悪影響を与えてしまうことがあるのです。

 

これは、造影剤でも例外ではありません!!

 

体内の造影剤の濃度は、注入する速度や量によって異なりますが、ダイナミック撮影のように注入速度も量も大きい撮影の場合では、静脈内に高濃度の造影剤が流れている最中に撮影を開始することも珍しくありません。

 

つまり、静脈内に残っている造影剤がアーチファクトの原因となって診断に影響を与える恐れがあるのです。

 

これは、胸部全体の領域を含めた大動脈や心臓の検査に特に影響を与える恐れがあります。

 

どういうことか。

 

それは、左腕頭静脈の走行に関係があります。

 

左腕頭静脈は、左総頸動脈と腕頭動脈の前を密に横切りながら、上大静脈に流入します。

 

ということは、左から高濃度造影剤が注入されている場合、左鎖骨下静脈と並行して走行する左鎖骨下動脈を含め、総頚動脈、腕頭動脈、人によっては大動脈弓にまで、そこから発生するアーチファクトが検査の目的となる動脈に黒い線を入れ込む形で影響を与えることになってしますのです。

 

一方、右から造影剤を注射した場合、右鎖骨下動脈と上大静脈に関わる部位だけと影響は左に比べて限定的です。

 

そのため、ダイナミック撮影のように造影剤が注入されている最中に撮影が開始される場合には、右からの注射が推奨されているのです。

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それ以外の注射する腕が決まる理由とは?

今までは、原理的に造影剤がより効果的になるためにはという焦点で、造影するなら右のほうが良いという理由についてまとめてきました。

 

がしかし、実際には、それ以外の場合にも、造影剤を注入する腕が決まってしまう要因があります。

 

その代表的な例として、シャント形成術後と乳がんの全摘術後の場合です。

・シャント形成術後

シャントとは、人工透析を行っている方が形成するものです。

 

人工透析を行う場合、1~2日間体内に蓄積された毒素を浄化する為に、1分間で200ml近い血液流量が求めれます。

 

しかし、通常の血流では1分間で200mlもの大量の血液を透析装置に送り込む事ができないので、シャント手術を行って、血流量を増やす必要があるのです。

 

シャント手術とは、動脈と静脈を繋ぎ合わせる手術のことです。動脈と静脈を繋ぎ血流量を増やすことができます。

 

人工透析を行う時には、動脈に穿刺しますが、シャントがあれば、いちいち動脈を穿刺する必要がなく、血液透析ができるようになります。

 

シャントは患者さんの大切な生命線です。シャントのある腕もふつうに使うことは可能ですが、外傷や、シャントのある腕は、袖口のきつい服を着ない、血圧測定や採血をしない、腕時計をしないなど、強い力がかからないように注意が必要となるのです。

出典:plaza.rakuten.co.jp-

この注意には、造影剤の注射も含まれます。

 

造影剤の注入には、自動注入器(インジェクター)を使用し、注入速度も量も大きい場合がほとんどです。

 

その場合、注射された血管には強い圧力がかかることになります。

 

つまり、シャントの形成されている腕に造影剤を注入してしまうと、その圧力によって、シャントを破損する恐れもでてきてしまうのです。

 

検査のために患者さんの生命線を壊すリスクを取ることは決してありません。

 

なので、『シャントが形成されている腕』は右であろうと左であろうと、造影剤を注射することは禁忌となっているはずです。

・乳がん術後(乳房全摘後)

乳がんはリンパ節転移が多く、これを郭清(切除)することもあります。

 

この場合、リンパ腺の流れが悪くなり、リンパ浮腫(むくみ)を起こしやすくなっています。

 

それは、採血や点滴、血圧測定など一般的に行われる医療行為でも誘発されるため、造影剤を注射の同様に行うことが出来ません。

 

乳がん術後の方は、何年も転移や再発がないか確認するためにCT検査を受けることが多く造影剤を使用することもありますので、注意が必要です。

 

細かく言えば、手術の程度(リンパ郭清をどの程度行っているか)によって状況は異なります。

 

が、様々な病気の患者さんが来る検査室では1人1人、詳細な治療状況を把握することは困難です。

 

乳がん術後の方の造影CT検査は、

 

『患側からの造影剤の注射はダメ!!』

 

と覚えるが賢明といえるでしょう。

 

また、リンパ郭清時は、その周囲の神経や血管を切除している場合もあり、術後から時間が経過していると、側副血行路が形成されてこともあります。

 

そこに造影剤が注入されると、患者さんも極度の痛みを伴うケースがあります。

 

リンパ浮腫や痛みなど、乳がん全摘(リンパ郭清)後には、注意しなければならないことが沢山あるのです。

まとめると・・・

造影剤の注射は、右からが注射することが造影効果や画質面からいって利点が多く基本となります。

 

が、それが正解とは限らない場合があり、

 

シャント形成後や乳がんの術後など、病院には様々な事情を抱えた患者さんが来るため、常に右側からが良いということにはなりません。

 

なんのために検査を行うのかどうやったら安全に検査を行い、診断に有用な画像を得ることが出来るのか、一人ずつ考えながら行う必要があります。

 

私個人的には、造影剤を使った検査は、事故が多い検査の一つであると思います。

 

知らなかったからでは、理由にならないケースも沢山見て来ました。

 

そんなことが起こらないよう、しっかり対策することは重要でしょう。