MR画像に影響を与えるのは、T₁やT₂といった緩和時間だけではありません。
血流や造影剤もそのひとつです。
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血流(flow)が信号に与える影響とは?
まず、MRIで横断面を撮影するときを考えてみましょう。
血管の多くは、体に対して縦に走っているため、横断面に対して、血管が直行している状態とはしばしばあるのです。
最初の90°パルスを送ると、その断面の全ての陽子は、そのラジオ波によって影響を受けることになります。そして、RFパルスを切った後に、その断面からの信号を受け取り、記録するわけです。
ただ、血管内の血液だけは違います!!
血液とは、絶えず体内を流れているもので、同じ部位であっても、今あった血液は、次の瞬間には、頭側や足側のほうなど、流れてしまっているのです。そのため、スライス面の血管内にあった血液も、画像を撮影している間に、次の部位に流れてしまっていることになります。
ということは、せっかくRFパルスを送ってエネルギー状態を高くした血液は、スライス面内から流れてしまい、エネルギーの低い血液が新たにスライス面内に入ってきてしまっているのです。
結果、撮影するスライス面内の血管内だけから、信号が出てこないことになり、画像上では黒く見えてしまうことになります。(flow-void現象)
血流が画像に及ぼす影響はこれだけではありません!!
さっきとは、逆に信号が増強する場合もあります。
先ずは下の図を見てください。
血管が、撮影される断面を通り抜けている場合の、90°パルスをかける前から、90°パルス直後のの状態を表したものです。
もし、次の90°パルスをかける前にある程度時間があると、一番右側のように、周囲の陽子には緩和が起こり、上を向いた縦磁化が生じています。
しかし、血管の中の陽子は、断面内から流れてしまっており、最初の一番縦磁化が大きい陽子に置き換えられているのです。
すかさず次の90°パルスを送ると、この時には血管内の陽子の縦磁化のほうが大きいために、周囲に信号よりも大きい信号が血管から得られることになります。
血管内だけは、常に新しいものが流れてきているから元気一杯なのです。
MR angiographyもこのことを応用して、撮影しているのです。
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MRIの造影剤について
常磁性体のあるものは、周囲にある陽子の緩和時間を短縮させるような小さな局所磁場を持っています。
この影響のことを、陽子の緩和促進効果といいます。
身体の中にも、正常の状態で常磁性体が含まれており、代表的にものに血腫内にあるデオキシヘモグロビンやメトヘモグロビンと呼ばれるヘモグロビンの代謝産物があります。
MRI用造影剤に使われるのは、ガドリニウムと呼ばれる、希土類元素です。
ただ、ガドリニウムは何も結合して状態では、毒性があり使うことができません。
なので、人体に投与できるように、DTPA(体内に取り込まれたプルトニウムの体外排泄を促す効果があるとされる薬剤)と結合させて毒性の問題を解決したものが使われています。
で、気になるMRI用造影剤の効果はどんなものなのか?
それは、周囲にある陽子のT₁、T₂を短縮させることにより信号強度を変化させることです。
血管内に投与されたガドリニウムが組織内に取り込まれると、T₁は短くなります。(縦磁化の回復が速くなる)
T₁曲線でいうと、下の図のように左側に移動するのです。
その結果として、時間TRのときの組織間の信号の差は大きくなります。その状態でT₁強調画像を撮影すると画像上のコントラストが良好になり、組織間の区別がつきやすくなっります。
では、もし造影剤の投与後にT₂強調画像を撮影するとどうなるのか?
造影剤はT₂も短縮させる効果があるので、取り込んだ組織の信号が弱くなります。
どちらの強調画像を撮影しても、造影剤の効果はあるのです。
ただ、信号が弱くなっている場所を見るよりも、増強されている場所を見る方が人は認識しやすいので、造影剤投与後にはT₁強調画像が撮影されることが多いといえます。
さらに、造影剤に関して、重要なことがあります。
それは、造影剤は体の中で均等に分布するわけではないため、組織の信号が受ける影響は部位ごとに異なるということです。
血管が豊富な組織は造影剤の効果は強く現れますし、頭部のように血液脳関門が正常に働いている部位では、造影剤の効果は組織には届きません。一方で、腫瘍などで関門が破壊されている場合には、造影剤が腫瘍に取り込まれて、画像上で強い信号となって現れることになります。
造影剤は、病変の検出に役立ち、使うことによってMRIの診断がより正確に行うために今では、欠かせないものとなっています。