MRI原理⑲:位相コントラストMRA(PC-MRA)とは?

位相コントラスト(PC:Phase-contrast)MRAは、TOF(time-of-flight)とはまた違った方法で血管描出を行う撮像法です。

 

PC⁻MRAは、その原理をすこし難しく感じる点が多く、少し悩ましいのでその原理を理解することを諦めてしまう方も多いのではないでしょうか。

 

しかし、やっていることはMR版のDSA(digital angio graphy)といった感じなのでそこまで難しくはありません。

 

そこで、今回は位相コントラストMRA(PC-MRA)法についてまとめてみたいと思います。

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PCーMRAに必要な原理とは?

位相コントラストMRAは流れる血流に生じる位相シフトを検出する手法です。

 

といっても、わかりにくいのでこの手法で使用される傾斜磁場と位相シフトの関係を図を用いて説明したいと思います。

 

基本的に位相コントラストMRAでは、バイポーラ傾斜磁場(双極傾斜磁場)と呼ばれる2つで1組の傾斜磁場が使用されます。

 

どのような2つの傾斜磁場かというと、同じ大きさ、同じ持続時間を持っている傾斜磁場ですが、鏡像のように符号だけが逆になっている傾斜磁場です。つまり、1つはプラスの方向の傾斜磁場をかけた場合、その後に連続して、同じ大きさのマイナス方向の傾斜磁場を同じ持続時間でもって送信することになります。

 

では、このバイポーラ傾斜磁場はどのような効果をもたらすのでしょうか。

 

まず、血管の外に3つ、血管内に1つ、プロトンがある様子を考えてみましょう。この状態は、まだ傾斜磁場もかかっておらずMR装置の磁場によって、プロトンの位相は同期して揃っている状態です。

 

次に、バイポーラ傾斜磁場の1つめの傾斜磁場である、プラス方向の傾斜磁場をかけます。すると、全てのプロトンは時計回りに位相シフトが起こります。ただ、傾斜磁場とは、大きさに傾きを持っていることを忘れたはいけません。なので、血管外に3つあるプロトンには、それぞれ異なる磁場強度がかけらているのです。

 

その結果、血管外のプロトンは位相シフトのスピードは磁場強度に比例して大きくなっていくことになります。

 

一方、血管内の動いているプロトンでは少し違った位相シフトを起こしています。血管内のプロトンとは、血液が持つプロトンを指すことになりますが、血液とは常に同じ場所に留まるものではなく、常に全身を流れるように動いています。

 

そのため、傾斜磁場をかけた直後は、弱い磁場をかけられる場所にいても、傾斜磁場をかけ終わった後には先ほどよりも強い磁場をかけられる場所にいることになるように、動くたびにいる場所の磁場強度が変化してしまうのです。

 

結果、血管外にあるプロトンとは異なる位相シフトを起こすことになります。

 

では、血管内にあるプロトンはどの程度の位相シフトを起こすのか。

 

それは、傾斜磁場を最初にかけられた場所の磁場強度と傾斜磁場をかけ終わった時にいる場所の磁場強度の平均の磁場強度に比例した分になります。

 

例えば、1つ目の傾斜磁場では、血管外の3つのプロトンは左から60°、120°、180°の位相シフトを起こすのに相当する傾斜磁場をかけられたとします。つまり、左から右に向けて強い傾斜磁場がかかっている状態です。

 

血管内のプロトンは最初は傾斜磁場の一番弱い、60°相当の場所にいましたが、傾斜磁場がかけ終わった時には、流れて120°相当の真ん中の磁場強度の場所へと移動してきました。その場合、60°と120°の平均値となる90°分だけ血管内のプロトンは位相シフトを起こすことになるのです。

 

これは、スタート位置から真ん中まで、動くプロトンは変化する磁場強度を同じ時間ずつ経験してきたから起こることです。

 

さらに、位相コントラストMRAでは、この状態から時間をあけずにマイナス方向へと2つ目の傾斜磁場をかけます。

 

すると、最初の傾斜磁場とは方向が逆なので、全てのプロトンは反時計周りへと巻き戻り始めることになります。そして、かけられたマイナスの傾斜磁場は強度と持続時間が先ほどのプラスの傾斜磁場と同じですので、血管外にあるプロトンは傾斜磁場がかけ終わった時には、最初の位置へと位相シフトを起こし、戻ることになるのです。

 

先ほどの例でいうと血管外のプロトンは左から-60°、ー120°、ー180°と位相シフトを起こし、元の0°の位置へと戻り、完全に中和されることになります。

 

しかし、血管内にあるプロトンだけは違います。

 

血液とは逆流することはないので、先ほどと同じ磁場強度の場所へと戻ることはなく、先ほどよりも強い磁場強度をかけられる場所へと移動していくことになります。プラスの傾斜磁場をかけられたときは、60°~120°へと移動しまいしたが、マイナスの傾斜磁場時には-120°~ー180°へと移動することになります。

 

そのため、血管内の傾斜磁場では先ほど同じように-120°と-180°の平均の-磁場強度分に相当する位相シフトである-150°位相シフトを起こすことになります。

 

プラスの傾斜磁場時には90°位相シフトを起こしていたのに対して、マイナスの傾斜磁場では-150°位相シフトを起こすので、結果として、最初に位置へと逆戻りするだけにとどまらず、-60°分マイナス方向へと位相シフトを起こすことになってしまうのです。

この血管内の位相シフトは、血流速度が同じである限り、血管内のどこで測っても同じ結果になるのが面白く、重要な内容です。

 

また、この位相変化はスピンがバイポーラ傾斜磁場に沿って動いた距離も関係しています。その方向に沢山動けば位相シフトも大きくなり、少ししか動かなければ位相シフトも小さくなるのです。

 

そのため、位相シフトの大きさは血流速度に関係が深く比例の関係があることになります。

 

もっと正確にいえば、位相シフトの大きさは、これまでの内容にでてきたバイボーラ傾斜磁場の強度や持続時間にも関係していることになります。

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PC-MRAの画像を得るには?

では、これまでの内容からPC-MRAではどうやって画像を得ているのでしょうか。

 

最も近い内容はDSA(digital subtraction angiography)です。

 

どういうことか。

 

PC-MRAでは、まず最初に、バイポーラ傾斜磁場を使用していない時、つまり全てのプロトンが同期している状態で画像を撮像します。(DSAでいうマスク画像)

 

そして、次にバイポーラ傾斜磁場を使って撮像します。(DSAでいう造影後の画像、PC-MRAでは造影していないことに注意)

 

すると、血管外の静止したプロトンによって得られる画像は両方共に同じになります。一方で、血管内の移動しているプロトンはバイポーラ傾斜磁場による影響で位相シフトが起こっているため、異なる画像となります。

 

なので、画像を引き算をすれば、血管内のプロトンの位相シフトだけを反映した画像を得ることが可能になるのです。

 

実際には、画像の位相成分のみを引き算し、これにより、同じ位相を持つボクセルの信号は打消し、位相変化が起こっている場所だけ信号が打ち消されないということを利用し、位相シフトから生じる信号変化を画像化しているという表現が正しいかもしれません。

 

ただ、傾斜磁場をかける方向に関する考え方には注意が必要です。

 

今回は、左から右といったように1方向からだけを考えましたが、人の血流は横方向、縦方向、斜め方向へと様々です。そのため、1方向だけの傾斜磁場では、この変化を捉えることは不可能であるということになります。

 

よって、実際の血流の変化を捉えるためには、少なくても全3次元をカバーするだけの複数方向へと傾斜磁場が必要になることになります。そして、それぞれの傾斜磁場方向で測定し、それぞれの測定からその方向の血流に関する情報を得ることになるのです。

 

もう一つ、位相コントラストMRAを行う場合に注意することがあります。

 

それは、血流速度に関することです。

 

血流速度は血管によってかなり大幅に異なります。速い部位もあれば、遅い部位、もっと遅い部位など血管の太さによっても影響されるので、様々です。そのため、傾斜磁場をうまく調整しなくてはならないのです。

 

ちょっと考えてみると。。。

 

血流が非常に遅いとプロトンは短い距離しか進みません。もし、この時に弱い傾斜磁場を使っていた場合、極小さな位相シフトしか生じないことになります。その状態で、血流の情報がある画像とない画像で引き算をしたとき、画像上にはほとんど何も残らくなってしまいます。

 

つまり、動きによる位相シフトの差が少なすぎて、画像化してもその変化を画像として表現することができないことが起こるのです。

 

この様な問題を避けるためには、傾斜磁場強度(実際にはバイポーラ傾斜磁場の振幅)を血流速度に合わせて調節する必要があります。

 

この血流速度は、撮像時には実際の値がわからないので予想することになりますが、撮像対称とする血管内での最大血流速度を参考にする必要があるのです。

 

そして、最大血流速度は撮像時には検査担当者が設定する値となっています。高すぎても低すぎてもいけないため、ある一定の経験や指標が必要となる撮像法となっています。

VENCとは?

VENCとはvelocity encodingの略であり、PC MRA時に担当者が設定するパラメータの一つです。

 

VENCは描出しようとしている撮像範囲の最大速度を表しており、上の内容でいう最大血流速度となります。

 

最大血流速度を静脈に設定すると、静脈だけの画像が得られます。選択した最大血流速度の設定値を上げると、静脈と動脈の信号が混ざった画像を得られますが、動脈だけの画像を得ることはできません。

PC-MRAの利点と欠点とは?

最後にPC MRAの利点と欠点をまとめて終わりたいと思います。

 

・利点

➀強度画像と位相画像が得られる。

アンギオグラフィーとしての画像と、血流の速度によって誘発される位相シフトから定量検査も行うことができる。

 

➁バックグラウンド(血管外)の抑制が良い。

血流と静止組織のコントラストは静止組織のT1値に影響されるものではなく、血流速度に関連するため。血流は流れているから速度があるのに対し、バックグラウンドは流れのない静止組織である。そのため、PC法では静止組織を完全に抹消することもできる(理論上ではですが)。

 

➂ボクセル内の位相分散や飽和効果が少ない。

大きなフリップアングルを使用した撮影法では、飽和効果が起こり、抹消の血管ほど信号低下が見られます。これは、繰り返し印加されるフリップアングルによる飽和効果のためです。

ただ、PC法では、小さな(15~20°)フリップアングルを使用しても、周囲組織と血管を区別することが可能です。そのため、頭部全体ような大ボリュームであっても、飽和効果による信号強度の低下を抑えることが可能となる。

さらなる、飽和効果低減のためには、造影剤によるT1短縮効果が必要となる。

 

・欠点

➀撮像時間が長い。

位相成分を引き算すると言葉では簡単に表すことはできますが、実は非常に複雑な数学的な計算が必要な過程です。さらに、大量のデータの取り扱い、複数方向からの情報収集といったことになるため。

 

➁乱流や血管の蛇行による位相分散を原因とする信号の低下の影響を受けやすい。

 

➂適切なVNECを設定する必要がある。
最大血流速度となる値を知っている必要がある。