MRIの技術の中には、ある組織を抑制(信号を低下させる)ものがある。
抑制技術を使うと、混在している組織間にコントラストを付けることができ、「実は高信号の中に隠れていた病変があった!?」なんてことを防ぐことができるのです。
今回は、その組織抑制技術である反転回復(inversion recovery:IR)法についてまとめてみたいと思います。
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IR(Inversion Recovery)法とは?
反転回復(IR)法は、T1(縦緩和時間)強調度をより強く表現した画像を得ることのできるパルスシーケンスのことです。
これによって、水や脂肪といった組織からの信号を抑制し、画像のコントラスト表現を変化させ、水の中に隠れた病気や脂肪の中に紛れてしまった病気などを見つけることができます。
では、どうやってT1値を強く表現するのでしょうか。
これについては順を追って説明したいと思います。
➀IR法では、まず始めに180°パルスを印加します。
そもそも、MRI装置内では、患者さん自身は磁石になっており、外部磁場の方向に沿った縦方向の磁場を持っています。
これに対して、180°パルスを印加することで、組織のスピン(歳差運動)が揃い、さらに上を向いていた磁化は反転し下向きになります。
➁組織の信号の縦磁化成分が0になるタイミング(null pointという)で撮像を開始する。
反転した磁化は180°パルスを印加し終わった直後から、T1緩和を始めます。(元の上方向の縦磁化に戻ろうとする)
しかし、その途中には必ず縦方向の磁場と下方向の磁場がトータルで0になるタイミングあります。これがnull pointと呼ばれるものです。
この時は、その組織から発せられる信号は全くない状態です。
つまり、抑制したい組織が0になるタイミングで撮影を開始すれば、その組織からの信号による影響を亡くした画像を得ることが出来ます。
ここからは、ふつーのスピンエコー(SE)法やファーストスピンエコー(FSE)法と同じです。
➂90°パルスを印加する。
MRI画像を作成するためには横磁化成分が必須です。
そのため、反転し下向きの縦成分の磁化ベクトルを横に倒すための90°パルスを印加する必要があります。
でも、null pointになる組織(縦磁化成分のない組織)は横磁化を発生することはありません。
始めに印加した180°パルスからこの90°パルスを印加するまでの時間をTI(inversion time)と呼びます。
撮影するための環境準備から撮影開始までの時間と考えていいかもしれません。
➃180°パルスを印加する。
この180°パルスの印加後に、画像信号を得ることができます。
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null pointのタイミングとは?
IR法のキモとなる部分が、狙った組織がいつnull pointになるのか?
ということです。
null pointになっていなければ、抑制したい組織からも信号が発せられ、画像上に表れることになります。
では、どうやって求めるのか?
これには、求める式があります。
TI=0.693×組織のT1値
例えば・・・
・脂肪の場合
1.5Tでは、脂肪のT1は約200msecなので、脂肪抑制のためには、
TI=0.693×200≒140msec
となる。
・脳脊髄液の場合
1.5Tでは、脳脊髄液のT1は約3600msecなので、
TI=0.693×3600≒2500msec
となる。
長所と短所
・長所
➀適当なTIを選択することにより、さまざまな組織の信号を抑制できる。
➁磁場の不均一性に左右されない。
180°パルスには、歳差運動の位相と周波数を揃える性質を持っています。そのために磁場の不均一による緩和の乱れを正すことができるのです。
・欠点
➀同様のT1値を持つ組織はすべて抑制されてしまうため、質的診断には向かない。
抑制した組織が目的の組織だけとは限らない。
➁SNRが低下する。
最初の180°パルス印加後、 TI時間の間に縦磁化が減少 するため。
低いSNRを補うために加算回数を 増加させるなどの対策が必要だが、撮像時間の長くなってしまう。
➂撮像範囲が減少する。
スピンエコー法などに比べて、180°パルスが余計に必要なため約1/2になります。
IR法を使った撮影像とは?
一番、代表的な撮影としては、STIRとFLAIRです。
・STIR(short TI inversion recovery)
null pointを脂肪に標準を合わせ、脂肪を抑制した画像。
・FLAIR(fluid-attenuated inversion recovery)
null pointを液体に標準を合わせ、液体を抑制した画像。
よく頭部の脳脊髄液を抑制し、MS(多発性硬化症)斑のような脳室周囲の高信号病変をはっきりさせるために用いられます。